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文恵の告白の翌日。 カーテンを閉め切った仄暗い空き教室で二人は佇んでいた。 風子「で、返事は何だって?」 文恵「さぁね。面食らったような顔して逃げちゃったよ」 黒板に落書きしては消してを繰り返す風子と、六十八点と何とも評価し辛い点数が書かれたテスト用紙を折っている文恵。 会話こそ成立しているものの互いに目を合わそうとはせず、深いコミュニケーションは求めていない事が分かる。 文恵「……そっちの具合はどう?」 風子「死ぬほど手抜きされてたみたいね。外傷らしい外傷は打ち身だけ。二、三日で良くなるよ」 文恵「そっか」 風子「うん」 それきり二人は黙り込んだ。 チョークがかつかつと黒板と触れ合う音、紙擦れの音がやけに大きく聞こえる。 文恵「でーきた」 テスト用紙を折って作った紙飛行機を見て、文恵は無邪気に微笑んだ。 それは直ぐに文恵の手元から離れ、緩やかに宙を滑ってゆく。 翼の部分に点いた小さな火種が燃え広がり、夢を書いていないテスト用紙は塵となって消えた。 風子「証拠湮滅?」 文恵「そんなに悪い点取ってませんよーだ。風子は何点だったの?」 風子「九十点」 文恵は居心地の悪そうな顔をして黙り込んだ。 風子は落書きに飽きたのだろうか、粉がついた手をはたくと教卓に座り込んだ。 文恵も文恵でやる事が無いようで、手持ち無沙汰に髪の毛を弄っている。 文恵「……暇だね。もっとこうスカッとするような方法は無いの?」 風子「スカッとやられたいなら好きなだけ暴れれば? 貴女も見たでしょ、秋山さんの力を」 苦虫を噛み潰したような顔をして、文恵はそのまま机に突っ伏した。 文恵「にしても今のやり方だって付け焼き刃で考えた方法でしょ? そもそもあの二人が私達を狙ってるなんて情報もうさん臭いし」 刀を親指だけで器用に抜き差しする。 かちゃかちゃと小気味の良い音が鳴り響く。 風子「それに関しては間違いないよ。情報ソースは他でもない生徒会役員なんだから」 文恵「ガセネタ掴まされて骨折り損でしたー、って事は考えられない?」 つまらない現状に納得がいかない文恵の意見は自然と否定的になる。 風子「そんな事するメリットなんか無いでしょ。下手に警戒心を煽るよりもこないだみたいに予告無しで来られた方が、こっちとしては厄介なんだから」 文恵を諭す事にもうんざりしてきたのだろう。 風子の口調が次第に投げやりになっていった。 文恵「あの会長さんがこんな大事な事を、それこそ私達に密告するような末端の人間に喋るかな」 風子「さっきからやけに否定的ね。喧嘩売ってるの?」 文恵「買ってくれるの? らっきー、売ってみるもんだね」 文恵は勢い良く起き上がり、長刀の柄を握った。 爛々と輝かせた瞳に映る風子は人ではなく、餌だった。 風子「残念、高い喧嘩を買うほど馬鹿じゃないの」 馬鹿、という単語を強調し、風子は片手を翳して文恵を制した。 露骨に苛立った表情を浮かべ、背もたれに身を預ける。 風子「……さっき言った密告者の件だけど、その子は決して末端なんかじゃないわ。あの生徒会長が両手を上げて信頼を預ける人間よ」 風子の言葉には話半分でしか耳を傾けていなかった文恵だが、その言葉を聞いて彼女は妖しくと笑った。 文恵「へぇ、煮ても焼いても食えそうにない人だけどね。そんな人が居るんだ」 生徒会の中の主要人物。 そして尚且つ和の信頼を勝ち取るに足る力を持つ人間。 文恵は決して察しが良いタイプの人間ではないが、その文恵でも内通者のヴィジョンは容易に想像出来た。 風子「いちごちゃんには及ばないけど、私のやり方もなかなかでしょ?」 文恵「ゴキゲンだね。それなら恋愛ごっこもまだ我慢出来そうだよ」 控え目に膨らむ自分の胸に手をかけ、文恵は悶えるように身震いした。 軽音部と他の面々が南極に赴き、各々が違った成長を遂げた。 漠然とした出口の無い霧の中で力への糸口を見つけた者。 過去の自分と決別し、人としての情を捨てて鬼となった者。 心を預けるに足る友と、再び相見える事が出来た者。 闇に沈んでゆく想い人を正しい道に引き摺りあげる決意を固めた者。 それぞれの葛藤、進歩、経験を全てあげようものならばそれこそ枚挙に暇が無い。 その中で一人、抜きんでて成長した者が居る。 彼女は六道輪廻を司る神の叡智に限り無く近い力を、かつての師の死を乗り越えて掴み取った。 和「で、私にその力を見定めて欲しいと」 紬「忙しいのにごめんね? 最近皆バラバラだから他に頼める人がいないの」 桜高校舎の屋上にて二人は対峙していた。 二人を取り囲むように一般生徒が凡そ一クラス分が固唾を飲んで立ち尽くしている。 和「まぁ最近の事務仕事は下の子達に任せてるから良いんだけど……。ちょっとギャラリーが多過ぎるんじゃない?」 呆れたように嘆息しつつ、和は辺りを一瞥した。 だがギャラリーは誰一人としてこの場を離れようとはしない。 『鬼殺し』琴吹 紬が『女帝』真鍋 和と衝突する。 誰もがその瞬間を見届けたいと望んでいるのだ。 和「にしてもこれで負けちゃったら笑えないわね。ムギは一気に序列暫定トップじゃない」 暫定トップ、という単語を聞いて誰もが憂の姿を思い浮かべた。 一部の生徒の軽音部殲滅作戦以来忽然と姿を消した彼女の名前は自然と桜高のタブーとなって風化していった。 もっとも、和達の間で今まで彼女について触れていないのは恐怖からではない。 幼い頃から憂と寄り添い続けた唯の事を憂いての事だった。 和「……こんな時だからこそ湿っぽいのはナシよね」 一人ごちて和は腰に差した刀を抜く。 刀身に桜の花びらが彫られた桜高生徒会に代々伝わる銘刀『桜花』。 歴戦の血と誇りを帯びた輝きが紬に向けられる。 和「見定めてあげる。今まで何をして、何を得てきたのかを」 対峙する二人。 周囲を取り巻く空気が震える。 和を桜高の王たらしめる膨大な闘気が溢れ出した。 紬「……行きますっ!」 聖母のように朗らかな微笑みを浮かべていた紬の表情が一変し、意志を刃に変えた鋭い顔付きになる。 その場で重心を低くし、右手を大きく薙ぐと疾風の刃が飛び交った。 和「風……じゃないわね」 和は大気の振動、違和感だけを感じ取って不可視の刃をいなしてゆく。 一瞬で全ての刃を見抜く事は難しいが、躱さなければならない急所などは上手く避けていた。 紬「まだまだ!」 右手、左手と紬は立て続けに宙を掻いた。 六道の一つである修羅道。 その無限の剣閃は標的を切り刻むまで現れ続ける。 対する和もいつまでも防戦一方ではない。 念じ、現れるのは桜花を媒体とした巨大な闘気の霊刀。 一振りで修羅の刃を巻き込み、蹂躙してゆく。 和「あら、こんなものだったの?」 光の刃が鞭のようにしなる。 その規模の大きさから巻き込まれる事を恐れた一般生徒達は散り散りとなって離れていった。 伸縮自在の刃が鉄の手摺を砕き、コンクリートの床を削りながら紬に襲いかかる。 しかし自分が持っている知識だけではあの力に説明がつかない事に和は歯噛みした。 和「どこから来てるのよあの力は……」 本来闘気を扱う者がその力を攻撃に用いる時、闘気の性質を表す色が見られる。 だが先の紬の技からはどの色も見受けられなかった。 それだけではない。生物ならば皆大小は異なれど備わっている筈の闘気、その存在すらも紬からは発せられていない。 和「…………」 まるで死人のようだ。 和は心の中でそう揶揄した。 生気を持たず、人知を越えた力で敵を食らう力。 和「あの世にでも行ってきたのかしら……」 皮肉混じりにそう呟くと同時に和の首筋を何か冷たいものが這った。 和「っ!?」 即座に刀を構えて空を仰ぐ。 和の視線の先には冷笑を浮かべて落ちてくる紬の姿があった。 紬「畜生道──」 鍵語と共に紬の身体が落下速度を増す。 和は瞬時に察した。あれと正面にぶつかってはならないと。 身構えて腰を落としていた身体を無理矢理捩らせ、半ば転がり回るようにその場を離れる。 それに遅れて耳を劈く轟音と共に大量の土砂が舞った。 和「闘気でもなければ生身の力でもない。凄い力ね……」 紬「大切な人から貰った力だもの。弱いなんて思われてたら申し訳が立たないわ」 紬は地面に深くめり込んだ腕を引き抜き、砂埃を払う。 彼女を中心に出来たクレーターは凡そ百メートルにまで及んでいた。 和「……大したものよ。でもそんな馬鹿正直な攻撃じゃ私は捉えられないわよ?」 全身のバネを用いて地面を蹴る。 刹那、紬と和の間にあった隔りは一瞬で縮められた。 紬「っ!」 紬は僅かに見えた袈裟斬りの軌道から身を逸らし、一歩後退する。 だが瞬きした瞬間和の姿は目の前から消えていた。 和「こっちよ」 振り向いて体勢を整える余裕など無い。 風を斬り、襲い来るは無情なる背中刺す刃。 それでも紬は動じなかった。 紬「人間道──」 指も触れず、敵意さえも向けず、ただ周りに在るものを地に平伏させる力。 六道が一つ、人間道の不可視の圧力が和を襲う。 和「──っ!?」 息が詰まり、言葉を紡ぐ事が出来ない。 和が地に膝をつけた瞬間ギャラリーのざわめきが大きくなった。 片足を軸に紬の身体が回転する。 その勢いを殺さぬまま、岩をも容易く砕く回し蹴りが和の眼前に迫った。 躱そうにも和の身体は鉛がのしかかったかのように重く、びくともしない。 ギャラリーの息を飲む音と紬の足が和の頬を捉えた音が同時に鳴った。 人間道によって縛られた和は衝撃に身を委ねる事すら許されず、その意識を切り離されかける。 だが……。 和「温いわよ!」 鉛のような腕を動かすのは女帝としての意地。 桜花は妖しく輝き、紬の両足を刈り取らんとする。 紬「くっ……」 紬は表情を歪め、大きく後退した。 その瞬間和を縛る圧力は消え失せ、女帝の力が解放される。 紬「凄いわ。ノーガードであれを受けてまだ動けるなんて……」 和「羽根生やしたばかりのひよこには負けられないわよ。そこは経験の差よね」 和は立ち上がり、軽くおどけてから口の中に溜まった血を吐いた。 和「畜生道、人間道。……大方六道の名を冠した技術かしら? まぁ多く見積もってもその手品は七つ八つ辺りで打ち止めね」 ひび割れ、歪んでしまった赤縁の眼鏡を投げ捨てる。 その直後、彼女の頬が不気味に綻んだ。 紬「…………」 和「先ずは二つ、貴女の力は見切ったわ。次はどんな手品を見せてくれるのかしら?」 闘いは始まったばかりだ。 その場に居た全員が一同に心の中で呟いた。 ※ さらっと強さ序列 憂(黒龍憑依状態)>>唯(何処かの誰かさん憑依状態)>澪>>作者贔屓の壁>>いちご>憂>>>和=紬>>姫子=しずか=文恵≧純≧風子=唯>>梓=三花>>律>>>>>エリ=アカネ>>キミ子=よしみ 主要キャラだけでざっとこんな感じかな どうせ直ぐに入れ替わるだろうからアテにもならないし展開予想にも使えないだろうけど 紬の拳が地を砕き、和の斬撃が大気を切り裂く。 紬の一撃が和を捉えてからおよそ十分間、力の均衡は保たれていた。 和「さっきの手品はもう使わないのかしら?」 伸縮自在の闘気の刃を作り出し、紬の側に振り降ろす。 グラウンドの深い層にある硬い岩が砕け散り、飛礫となって紬を襲った。 紬「同じ手品ばかり続けてたら飽きちゃうでしょ?」 地に深く食い込んだ闘気の刃に手を添え、無力化する。 六道が一つ餓鬼道、貪欲に闘気を食らい尽くす悪鬼の力だ。 餓鬼道の前ではあらゆる闘気も渇いたスポンジに垂らした水のように吸い尽くされてしまう。 光の刃を打ち消した右手をそのまま引き、和目掛けて飛び掛かる。 人間離れした驚異の脚力、そして振り降ろされるのは脅威の鉄鎚。 避ける事は許されない。 この衝撃の余波を無防備の状態で受けるなどそれこそ自殺行為だ。 同じ倒れるなら前向きに倒れよう、和はそう考えた。 和「──止める!」 彼女にしては珍しく声を荒らげた。 腰を落とし、桜花の刀身にありったけの闘気を込めて盾にする。 シンプルな答えだった。 逃れようの無い巨大な力が迫っているのなら、それを上回る力で応えてやれば良い。 拳と刃が触れ合い、とてつもない衝撃が巻き起こされる。 衝撃はやがて熱に転化され、熱波となって拡がった。 和「く……うぅ……っ!」 紬「六道が一つ、畜生道。読めたところで躱せなきゃ意味無いでしょ?」 地についた和の足が爪先から地面に沈んでゆく。 多くの血を啜り続け、多くの栄光を打ち立ててきた桜花。それに闘気を込めている限り、桜花は最強の盾と成り得る。 だがそれゆえに畜生道の力は全て和の腕を容赦無く襲う。 次第に手の感覚が薄れてゆき、自分のものではないような錯覚に陥った。 刀を手放した先に見える未来は何色だろうか。 和の瞳に負の色が滲み始めた瞬間、紬の拳は刀身から離れた。 和「な……っ!?」 決して紬が根負けしたわけではない。 次に放たれるのは勝敗を決めんとする一撃なのだ。 和は理屈ではなく、本能でそれを悟っていた。 痺れる両手に鞭を打ち、懇親の力を込めて振り抜く。 紬「人間──」 和「させないわ!!」 鍵語が紡がれるよりも和が放った刃は速かった。 地面を踏み締めていた紬は咄嗟の反応で後転し、それを躱す。 そして再び戦況は均衡を保つ。 両者共に一寸の隙も無い鋭い目で敵を見据えていた。 和「…………」 紬は確実に強くなっている。 それも女帝の名を欲しいままにしてきた和と対等に渡り合えるほどに。 ここまでの決して多いとは言えない鍔競り合いの中で和はそれを嫌というほど理解していた。 和「なるほどね……」 だがそこで朽ち果てる女帝ではない。 和は大多数の生徒が一筋縄ではいかない武術を持つ桜高を一手に束ねあげてきたのだ。 彼女を形成しているものは単純な武力だけではない。 要所要所で的確な判断を下す為の知識。 逆境に立たされた際に不可能を可能たらしめる知恵。 そして今そのあらゆる力を総結集させて、六道の力と向かい合っている。 和「ここまでの手品は全て理解したわ。今まで通り上手くいくとは思わない事ね」 和は桜花の刀身を指でなぞる。 指が通った部分は砂埃が綺麗に取れ、妖しい輝きを取り戻した。 紬「…………」 肌を刺すような空気に、紬は自ずと脇を絞る。 紬を含む真鍋 和をよく知る人間は駆け引きに置けるブラフを得意とする人間と聞いて真っ先に彼女を連想する。 恵まれた才覚、神域に到達している剣術。時には鬼にもなれる冷酷さ。 そのどれにも依存せず、常に戦場を自分だけのキリングフィールドたらしめる狡猾さを彼女は持っていた。 そんな彼女の本質を知りながらにして紬は彼女の言葉を真直ぐに受け止めた。 薄っぺらな嘘などではない。ここから先、自分が優位に立つには一度のミスも許されないだろうと。 紬「……それでも、やれる事をやるだけだから」 先の見えない闘いの海の中を深く潜ってゆく。 この闘いの敗者とは即ち、苦しみから逃げて先に顔を上げた者だ。 紬も、そして和もそれをひしひしと感じていた。 和「じゃあ一つずつへし折ってあげるから、死ぬ気で這い上がってきなさい」 和はどこか楽しそうな面持ちだった。 荒れた地面を軽く足で慣らし、その上から刀を突き刺す。 紬「……っ!」 紬の足元が一瞬だけ煌めいたかと思うと、次の瞬間地を食い破って岩の槍が突き出してきた。 紬は身を翻してそれを躱し、闘気によって造り出された岩の槍を打ち消そうとする。 和「甘いわね。私の剃刀は二枚刃よ」 刹那、紬は身体の中の臓器が全て下ってゆくような錯覚に陥った。 痛みは無い。だがとてつもない衝撃は紬を混乱させる。 彼女は自分が宙に投げ出されている事を認識するのに数秒を要した。 では何故紬が宙に投げ出されているのか。 答えはあまりにもシンプルだ。比喩でも何でもなくそのままの意味で、地が跳ね上がったのだ。 和「また人間道で私を叩き付けてみる? そしたらこの状況も打破出来るんじゃない?」 紬の眼前に皮肉めいた笑みを浮かべた和が迫っていた。 振りかぶった桜花の切っ先が妖しく輝く。 和「出来ないわよね。だって地に足がついて無いんだもの。種さえ分かればこんなものよ」 紬の肩口から鈍い音がした。 斬られてはいない。ただの峰打ちだ。 しかしその一撃は紬に致命的なダメージを与えた。 闘気の加護も受けていない峰打ちが何故致命傷と成り得るのか。 その理由は、紬が現時点で「闘気という概念を微塵も理解していない」からだった。 逆に地に叩き付けられた紬は息を詰まらせた。 ほんの一瞬だけだが脳が陥落しまう。 常人にとってのそのほんの一瞬は取るに足らないような時間だが、この二人にとっては勝敗を決し得る時間だ。 和「チェックメイトね」 仰向けに倒れた紬に覆い被さるように、和は紬の喉元に刃を突き付けた。 勝ち誇ったような笑みを浮かべる和は勝利を確信しながらも一寸の油断もしていない。 和「今まで貴女が放った技の中にこの状況を打破出来るものは無い筈よ」 紬「……どうかしら」 紬は苦し紛れに声を搾り出すが、それは逆に和に自信を与える。 和「認めないなら一つずつ説明する? 最初に放った鎌鼬には私を引き離す殺傷力は無い。あくまで目眩ましのようなものよね」 和は修羅道が発動された時、紬が緑の闘気に目覚めたのかと思ったが一度鎌鼬を受けてみてその考えを否定した。 風、大気を司る緑の闘気の能力者の技ならば真面に受けて掠り傷程度で済む筈が無いのだ。 紬から緑の闘気を感じられない事。初撃の威力の小ささ。 この二点から和は修羅道の力が取るに足らないものだと判断した。 和「次に私の闘気を打ち消した技と畜生道。この二つは二つで一つ。どちらか一つを抑えれば無力化される。そうでしょ?」 紬「…………」 紬は押し黙った。 発言の一つ一つから何を気取られるか分からないからがゆえに。 和「やっぱりね。これはあくまで確信に近い推測だけど、畜生道は相手の闘気に触れないと使えないんじゃない?」 術者の身体能力を飛躍的に増幅させる畜生道の力。 一度発動してしまえばたとえ和と言えども継続的に見切り続ける事は難しい。 それは紬から見ても火を見るよりも明らかだ。 だがそれならば何故その力をフル活用しないのか。 和はまずそこに着眼した。 和「貴女が畜生道を使ったのは二回。そしてその二回とも私の闘気に触れた後だったわ」 それだけならば偶然という線が濃厚だろう。 だがそれならば説明出来ない点が出てくる。 二度目の畜生道を使う前に紬は地から突き出た岩の槍に触れてそれをかき消した。 しかし普通に考えればその行動にメリットなど一つも無い。 危険はほぼ零と言って良い停止した岩の槍にわざわざ触れに行く時間。 言うまでもなくその動作が生むタイムラグは時には致命的な敗因と成り得る。 そこから考えられるのは……。 和「畜生道の前に使った力は闘気を打ち消すじゃなくて闘気を吸収する力。そしてそれが成功して初めて畜生道を使う事が出来る」 紬の肩がびくりと跳ねた。 一瞬だけ驚いたような表情を浮かべる。 和「人間道についても説明出来るわよ。あれは自分が地面に触れていないと──」 紬「もう良いわ」 表情が驚きから一変し、穏やかなものとなる。 それを見て和は紬の首に突き付けた刃を離そうとした。 紬「もう出し惜しみはしない。次の技が私の切り札よ」 紬が言い終えるよりも前に和は刀の柄を握る手に力を込めた。 勝敗自体は既に決まってはいるものの、和は思った。 純粋に、単純に、紬の本気を見てみたいと。 和「切り札はゲーム中に切らなきゃ意味無いわよ。実戦では出し惜しみしないようにね」 和も紬もどこか楽しそうな顔をしている。 互いが互いに自分の技の方が優れているという確信があった。 だからこそ戦況的には優劣があるものの、精神面ではどちらも劣っていない。 和「…………」 生唾を飲んで刀の柄を絞る。 その後に二人の視線が交錯した。 紬「地獄道」 まるでそれを契機にしたかのように鍵語は呟かれる。 移り世に蔓延する全ての物質は停止し、音も無く常世の門が開かれた。 和「これは……!?」 和は光景が移り変わる事すら認識出来なかった。 彼女は目の前にそびえ立った門を見て驚愕する。 美術に聡い者でなくとも一度は映像、或いは写真などで見た事があるであろう。 ロダンの地獄の門がそこに現れたのだ。 静止した闇の中で和は言葉を失っていた。 自身の心臓の鼓動すら警鐘に思えて、彼女の心を落ち着かせるものなど一つも無い。 この状況をどのようにして説明付けようか。 脳は無意味に足掻くも思考の糸は絡まるばかりだった。 紬「ようこそ地獄へ」 疑念でごった返す和の脳内が紬の一声で水を打ったように静かになる。 いつの間に抜け出したのだろうか、紬は和の手元を離れて彼女の真後ろに立っていた。 不敵に微笑む紬の肌は不気味なほどに青白く、まるで死人のようだった。 和「ここまで来るともう……なんだか、ね」 空間そのものを造り替える能力。 或いは本当に地獄が存在すると仮定して、地獄を召喚する能力か。 どちらにしてもこの現象は和の理解の範疇を越えている。 紬はこの力を大切な人、かつての師斎藤から譲り受けたと言っていた。 六道の力を自在に行使する兵が敵の中に居たと思うと和は内心ぞっとする。 物語を根本から覆せる力を持ちながらにして敢えて自らフェードアウトする事を選び取った男。 和「私には理解出来ないわね……」 二つの意味を込めて和は呟いた。 そして同時にとんでもない狂言回しだ、と今は亡き斎藤に向けて毒づく。 紬「理解する必要は無いわ。ここでは思考するという行為が無駄にナるから」 紬の身体に目に見えるほどの変化が起きる。 目の回りが急速に窪んでゆき、死人のような白い肌にどす黒い斑点模様の痣が浮かび始めた。 和「ちょっ……。身体が……っ!」 紬「思考だけジャないわ。呼吸モ、運動も、悲哀モ、憤慨モ、歓喜も……」 言いながら和に向けて翳して腕が黒いゲル状の肉塊となって爛れ落ちる。 連鎖反応のようにその勢いは増してゆき、紬の身体が原形を留められなくなるのは直ぐだった。 紬「人ノ無力さを痛感シナさい。それが貴女が出来ル──」 言い終えるよりも先に紬の身体は完全にゲル状の液体となった。 そして地面と呼んで良いのかも分からない、そこに立つ者を墜ちてゆく錯覚に陥らせる黒い足場に染み込んでゆく。 和「ムギ……!」 咄嗟に手を伸ばすが既に遅い。 得も知れない恐怖に苛まれる暇もなく、翳した腕の肩口を背後から叩かれた。 背後に居る人物から逃げるように和は振り返りつつ大きく後退する。 だが和は目の前に佇む人物を見て、驚愕のあまり目を見開いた。 和「……どうして」 理解不能な状況は和の精神を摩耗させ、その影響は肉体にも現れ始める。 込み上げる吐き気を堪えながら和は声を振り絞った。 和「どうしてアンタがここに居るのよ!?」 自然と声が荒くなる。 だが和の前に佇む少女は皮肉な笑みを浮かべるだけだった。 澪「失礼だな。まるで私が幽霊か何かみたいじゃないか」 生気を感じられない白い肌。色素の薄い唇から紡がれるのは冷たい声。 何をしても不安感を煽るその容姿で、澪の姿をした何かは軽くおどけて見せる。 澪「ほら足だってちゃんとあるよ。触ってみる?」 和「……いや。遠慮しとくわ」 にじり寄ってくる澪を制し、眉間に皺を寄せる。 澪はそれに気付いたのか、悲しそうに目を伏せた。 澪「……何でそんな顔するの? 私の事嫌い?」 和「…………」 上辺だけの言葉で取り繕えばどうとでもなるのに、何故か和は何も言えなかった。 それは和が自発的に押し黙ったわけではない。 自分の身体が見えない何かに支配されているような感覚が和を押さえ付けているのだ。 澪「そっか……。やっぱり嫌いなんだな。前々から気付いてたよ、変なところで妙に他人行儀だし……。他にもいろいろ──」 両手で頭を抱えて蹲る澪の身体が溶けてゆく。 和が瞬きする毎に澪の姿は紬と同じように黒い地面に染み込み、消え失せた。 澪「私は大好きなのに……。何で皆そんなによそよそしくなっちゃうの? ねぇ、どうして?」 背後で響いた声と共に和に覆い被さるのは澪の身体だった。 反射的に押し退けようとする和だが、触れた先に衣服の感触は無く、柔らかい肌の感触が指を伝って身を固まらせる。 和「服ぐらい着なさいよ……」 澪「ほらやっぱり素っ気無い。触ってよ、触らせてよ。じゃないと淋しいよ」 澪は胸に触れて固まったままの和の腕を掴み、自分の秘部をそっとなぞらせた。 和「離しなさいっ!」 澪「やだ」 澪は和と向かい合う形で身体を擦り寄らせ、求めるように腰をよがらせた。 和「……好き合ってるとしてもこんなのおかしいわよ。普通じゃないわ」 澪「嘘だ! 本当に好いてくれてるなら私の全てを受け止めてくれる筈だろう!!」 何とか手を振りほどこうと身を捩らせる和だが、澪の化け物染みた力の前では成す術無く押し倒された。 和「ちょっ……止めなさい! その首切り落とすわよ!」 澪「やってみろ。私に敵う人間なんて居ない事ぐらい、和なら分かるだろ?」 口元は微笑んでいるものの目は据わっていた。 這い寄る強烈な死のイメージが和の脳内を徐々に浸食してゆく。 和「……っ」 胸の奥で蠢く恐怖という魔物は和の視界を霞ませ、強者としての芯をいとも容易く叩き折る。 靄がかかった視界に映る光景が和にとって最も辛辣なものだったから。 「和……ちゃん……っ」 声がした方に首を回すとそこには見慣れた少女の姿があった。 いつもと変わらないふんわりとした茶色の癖毛。幼さを残す柔和な声色。 そして、今まで和が一度も見た事がない、彼女の絶望に打ちのめされた表情。 唯「たすっ……助けて……!」 両手両足を泥を固めたような人型の何かに押さえ付けられ、唯は苦悶の表情を和に向ける。 唯が着ている制服は揉み合いの際に負荷がかかったのか、ところどころが破れている。 柔らかい肌を露出させて押さえ込まれている唯の上に跨がるのは澪だった。 澪「──っ! 〜〜っ!?」 人語にすら聞こえない奇妙な呻き声を上げながら澪の形をした何かは唯の胸に顔を埋める。 唯「やっ──。和ちゃ……っ! たすけっ」 手足の自由を塞がれて凌辱される唯と目が合った。 和の喉は自然と渇き、手足が僅かに震え始める。 『友達一人救えねーくせに何が生徒会長だよ』 全身の神経を逆撫でる嫌な声が和の脳に直接響いた。 33
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桜高の校舎の屋上にて、五人の生徒が攻防を繰り広げていた。 律「だぁらああああっ!!」 神速のスピードを乗せた律の拳が和に向かう。 迎え撃つ和はそれを刃の腹で受け止め、軽く受け流した。 その拍子に大きく体勢を崩した律の背中に刀の柄を叩き付ける。 梓「っ!」 貯水タンクの上で梓がマシンガンを構えている。 律が和の射程範囲から外れた瞬間、梓はそれの引き金を躊躇無く引いた。 無数の弾丸が跳ね合い、計算づくで和の元に収束する。 和はそれを察知して片手をくいっと上げた。 それに呼応するようにコンクリートの足場が盛り上がり、和を守る盾になる。 紬「いきます!」 強靱な盾となった足場の前に颯爽と現れたのは紬だった。 力任せにコンクリートを殴り付けるとそれは粉微塵になる。 和「へぇ……」 舞い散る飛礫が凶器となって自分に襲いかかるのを見て、和は素直に感心した。 本来ランダムに舞い散る筈の飛礫が殆ど自分に向かってきている。 自分に悟られずにこんな小細工が出来るのはこの中でただ一人。 和「やるじゃない、律」 だがそれではまだ届かない。 僅かに嘆息すると和は刀を自分の眼前で回し、全ての飛礫を叩き落とした。 律「はっ、私らの剃刀は二枚刃使用だぜ!」 脇に現れた律に一瞬だけ気を取られた。 タンクの上では梓が自分に銃口を向けている。 梓「少し切れ過ぎるのが難点ですけど──」 純「はいざーんねん」 梓が言葉を紡ぐのを純が遮った。 両手を伸ばして構えた二丁の銃が分解されて床に落ちる。 梓「っ!?」 梓が驚愕し、後ろを振り返るとそこには気怠そうに欠伸をする純の顔があった。 純「駄目駄目だね。なーんで私が居るのを知っていながら皆和先輩に当たりに行くかなぁ?」 純はそう言うものの、この三人に今の純の動きを観測しろというのも無理な話だ。 純はこの時、三人の意識の穴を読み取り、絶え間なく動き続けるその穴を辿るように動いていたのだ。 武芸を極めた達人ですら一対一でやっと運用出来るような神業を、彼女は三人相手に欠伸混じりでやってのけた。 律「またかよ……」 紬「…………」 律と紬はがくりと膝を折った。 幾度となく続いた攻防に身体は悲鳴を上げていた。 梓「ご、ごめんなさい……」 梓はばつが悪そうに俯き、分解された銃を拾い集める。 和「これでこっちの三十戦三十勝ね。そろそろ休憩しない?」 和は脇に置いてあったコンビニのレジ袋を手に取った。 そこで初めて恵の差し入れの中身を見て絶句する。 和(酢コンブが……。四、五、六……三十個?) 様々な思考が和の脳裏を過ぎったがその全ては頓挫し、破綻した。率直に言うと。 和(……意味が分からない) これをこのまま差し出しては自分の人格が疑われかねない。 それを理解した和は袋をそっと握り潰し、開けっ放しの純の鞄の中に放り込んだ。 和「……休憩がてらに軽く反省会するわね」 純「顔引きつってますよー? 具合でも悪いんですか?」 普段は敢えて読まないのかは分からないが途方もなく空気が読めない行動を起こすくせに、こんな時だけは妙にあざとい。 そうは思ったものの和は口には出さなかった。 和「……まずは律ね」 律「げぇっ!? 私からかよ!」 不満を募らせる律を余所に、和は脳内で先の戦闘の内容を整理する。 和「あんたは単調な攻撃と複雑な攻撃のモーションが違い過ぎるわね。陽動してるつもりみたいだけどそれじゃあまるで猿芝居よ」 律「ぐぅ……」 和は刀を抜き、縦に振った。 剣圧で風が巻き起こり、散らばった飛礫が弾丸のような速度であちこちに飛散する。 律「うわっ!?」 飛び跳ねる律を視覚すると、今度は純に向けて同じモーションで一閃を放つ。 刀の運動スピードが頂点に達したところで、雄々しい闘気の刃が現れた。 純「ちょっちょっ、ちょっとぉ!?」 純は咄嗟に両手に緑の闘気を纏い、白刃取りの要領で闘気の刃を受け止めた。 相反する闘気は互いに打ち消し合い、硝子細工のように崩れ落ちる。 純「今殺す気だったでしょ!?」 和「まぁこれくらい出来れば上等よね」 純「いらっ」 自分など眼中に無いといった和の態度に、純は思わず擬音を口に出してしまう。 律「ほあー……」 惚けた瞳で先の一連の流れを見ていた律。 和はその律の瞳の動きを見落としていなかった。 和(私の闘気は見えてるみたいだけど、見せる気が無い闘気の流れは見えてないみたいね……) 和「次はムギ」 紬「はい!」 これから咎められるというのに紬の表情は何処か期待を抱いているような晴れやかな表情だ。 相変わらずよく分からない子だ。 そうは思ったものの和は容赦無く紬を咎める。 和「ムギは……。私を狙うのを躊躇してたでしょ? そんなんじゃ蟻一匹殺せないわよ」 言うと同時に和が紬の視界から消えた。 紬「う……」 次に和が紬の視界に現れた時には、鈍色の刃が紬の首筋にあてがわれていた。 和「躊いはコンマ一秒のロスを生むわ。参考までに、あの序列三位の立花さんならその間に突き千発はいけるわね」 紬は自分の認識の甘さを悔い改めた。 これから先いちごと対立するという事はその配下である元琴吹家の従者衆を相手にするという事だ。 紬「ごめんなさい……」 仮に自分と斎藤がぶつかるとして、今のように躊躇する事は無いと断言出来るか。その答えはノーだ。 和「次は……」 純「あ、私が言いますよ。多分思ってる事は一緒でしょ」 和が梓に言葉を投げ掛けようとしたのを純が遮る。 そして梓の肩を叩いた。 純「戦力外だね。多分伸びる見込みも無いしもう帰って良いよ」 梓「──っ!?」 梓は助けを求めるように和の方を見た。 だが無情にも、和はゆっくりと首を縦に振った。 梓「そんな……」 心臓の鼓動が頭に鳴り響く。 肺が締め付けられているかのように呼吸がしづらくなる。 梓の目には自然と涙が溜まっていった。 和「……残念ながらその通りね。打たれ弱さ、接近戦に対する消極的な姿勢。この二点だけでも致命的よ」 梓「っ!」 涙が表面張力の限界を迎え、梓の頬を伝った。 それでも和の言葉は止まらない。 和「それがあなたに合った戦闘スタイルとも思えないわね。銃を握るという事がどういう事なのかも分かってないみたいだし」 梓「銃を……握ること……?」 梓は投げ掛けられる辛辣な言葉に胸を締め付けられる。 絞り出すように言葉を紡ぐ様子はとても痛々しかった。 和「例えば」 和は屋上のフェンスぎりぎりの位置まで歩き、梓の方へと向き直る。 和「ここからあなたが銃を撃つのと私があなたの懐に潜り込むのとでは、どっちが速いと思う?」 答えは火を見るより明らかだった。 攻撃手段に銃を用いるという事は、自分が引き金を引いて弾が射出されるまでの僅かな時間ほぼ無防備になるという事だ。 常人からすればそんな僅かな隙などあって無いようなものだが、桜高においてそんな常識は通用しない。 梓「…………」 梓は何も言わずに俯いた。 小さな肩は小刻みに震えており、拳は固く結ばれている。 律「おい和──」 和「単刀直入に言うわ」 見るに耐え兼ねた律が割って入ろうとするのを片手で制し、和は梓に辛辣な言葉を吐く。 和「『射手』という名に甘んじて傷付く事を恐れるくらいなら、初めからそんな子はいらないの」 梓「──っ!」 梓の中で何かが崩れ落ちた。 手の甲で涙を拭い、荷物を纏めて校舎へと戻ってゆく。 紬「梓ちゃん!」 紬の制止などまるで耳に入っていないのだろう。 梓は脇目も振らずに屋上を飛び出した。 残された四人の間に流れる空気は険悪で、いつぶつかりあってもおかしくはない状況だ。 律「おい! ありゃいくらなんでも──」 和「分かってるわ。悪いようにはしないから黙って見てて」 和は身を踏み出そうとした律を制し、ポケットから携帯電話を取り出した。 電話は繋がったようで、何やら意味深な事を話している。 和「そうそう。軽音部の中野 梓って子」 梓の名前が会話に出てきたのを律と紬は目敏く聞き付けた。 和「ええ。多分その辺りを通ると思うから、『好きにしていい』わよ」 律「──っ! 和お前!」 律は自分の身体を止めようとはしなかった。 ただ怒りのままに駆け出す。 純「おっと、それ以上は駄目ですよ」 律「くっ……」 間に割って入ってきた純の威圧に気圧され、律は咄嗟に足を止めた。 和「ええ、それじゃあまた夜に」 携帯電話を閉じ、和は溜め息をついた。 その表情にはどこか安堵の色が見え隠れしている。 律「梓をどうするつもりだよ!」 純「あー、面倒臭いなぁもう! 頭ぶん殴りますよ!?」 律を取り押さえる純の表情はいかにも気怠そうで、今の状況をどれだけ面倒に思っているかが鑑みられる。 和「大丈夫よ、律」 和は組み伏せられかけている律の顔の位置に合わせて屈んだ。 律を見る表情は穏やかで、先程梓を突き飛ばした者と同一人物とは思えない微笑みを浮かべていた。 和「あの子は強いわよ。二年生であなた達と肩を並べて戦えてるんだから」 律「え?」 思ってもみなかった言葉に律は呆然とした。 和「ただ生真面目過ぎるのよ。素直に褒めたところで自分を卑下するばかりで伸びやしない。なら……」 和は落ちた飛礫を拾い上げ、握り締めた。 飛礫は更に細く砕け、風に流されてゆく。 和「徹底的に突き放して揺らぎを作ってあげれば良い。不安定ながらも周りのものの干渉を受けやすいその精神こそが……」 純「『絶対の彼方』を越える為に不可欠な心、ですね」 純が律から手を放す。 和の言葉を聞き入っていた律は勢い余って床に額をぶつけた。 紬「という事は梓ちゃんは……」 和「心配無いわよ。あの子を強くしてくれるアテなら一つだけあるわ」 先程まで暗かった紬の表情が打って変わって明るくなった。 紬「じゃあ戦力外なんかじゃないのね!?」 和「今のままならさっき私があの子に言った事もあながち間違いじゃないわ。でもきっとあの子は壁を越える、足元すくわれないようにしときなさいよ?」 どんな時でも他人を慮る紬の態度に、和は感心を通り越して呆れつつあった。 しかしその反面でそれを尊敬する自分もいる。 いつであろうと友を気遣い、自我を殺すという事は簡単な事ではない。 紬「分かったわ!」 その紬が大きく心を揺るがされる事になるとは、この時は誰にも分からなかった。 姫子「うん、そっちの方は任せといてよ。やるだけやってみるからさ」 姫子は通話を終えると携帯電話を閉じ、胸ポケットに閉まった。 エリ「誰から?」 アカネ「真鍋さんでしょ。今日の件は大丈夫?」 校門の前で姫子、しずか、エリ、アカネの四人がそぞろになって歩いている。 傍から見れば微笑ましいその光景、この四人の一人一人が一騎当千の実力を持ち、その内一人は並の一個小隊ならば個人で壊滅させられる力を持つ事など誰に予想出来るだろうか。 姫子「そっちは大丈夫なんだけど……。きゃっ──!?」 いきなり飛び出してきた生徒とぶつかり、姫子はよろめいた。 梓「ごめんなさい!」 姫子とぶつかった生徒は梓だった。 梓はちらりと姫子の方を振り向くと、掠れた声で謝罪した。 エリ「梓ちゃん……?」 しずか「知り合い?」 エリ「うん、そうなんだけど……」 エリは梓の顔を訝しげな目で見つめた。 梓の頬には涙が伝った後があり、よく見ると瞳には涙が溜まっているのが分かる。 エリ「何で泣いてるの?」 エリの問い掛けに対して梓が答えようとしたその時、姫子が梓の前へと歩み寄った。 姫子「中野 梓ちゃんかーくほ」 姫子は梓の肩にそっと手を置いた。 姫子の意図が分からない四人は同時に首を傾げた。 唯「いーちごちゃん!」 いちご「…………」 南極大陸を拠点とする若王子機関の本部。 その一室に唯の声が響く。 部屋に入り、いちごを視覚すると同時に抱き付いてくる唯をいちごは止めようとはしなかった。 いちご「離れて」 唯「もーう、いけずぅ」 抱き付いてきたまでは特に反応を示さなかったが、頬を擦り寄せられてしまっては行動に支障が出るからなのだろう。 いちごは若干不機嫌そうな顔をして、読んでいたハードカバーの本を閉じた。 いちご「何の用?」 唯「いや、用という用は特に無いんだけど……」 冷たい切り返しに唯はしどろもどろになってしまう。 いちごはその様子をひとしきり眺めると小さく溜め息をついた。 いちご「退屈?」 唯「うん……」 唯はしゅんと顔を俯けた。 まぁ無理も無いだろう。いちごは思った。 たとえギターを持たされているとはいえ、親しい友人など一人も居ないこの環境でほぼ寝たきりの生活を強いられているのだ。 傍から見ていても飽きっぽい性格である事が分かる唯に耐えられる筈もないだろう。 いちご「薬の量も増やしてもらったからきっと早く元気になるよ。だからもう少し頑張ろう?」 いちごは言い終えた後で少し饒舌過ぎたかと思った。 だがそれは杞憂だったようで、唯はどこか安堵したような笑みを浮かべる。 唯「うん、ありがと」 不意に唯に手を取られ、いちごは跳ね上がりそうになった。 冷たい自分の手とは対照的に、唯の手は温かかった。 唯「いちごちゃんの手冷たいね~」 いちご「…………」 撫でるように優しく、唯はいちごの手を包み込む。 自分の矮小さを認識させられているようで、いちごはたまらず目を伏せた。 唯「知ってる? 手が冷たい人は心が暖かいんだよ」 小学生でも知っているような下らない迷信だ。 そう思ったがいちごは口には出さなかった。 いちご「もしかしてその迷信、本気にしてる?」 唯「えっ!? 嘘だったの?」 唯はいちごの手を握ったまま固まってしまった。 どうやら本気にしていたようで、驚愕のあまり目を丸く見開いている。 いちご「それに私の心が暖かいなら他の人は聖人君子でしょ」 唯「んーん、いちごちゃんは優しい子だよ」 唯の表情は打って変わり、聖母のような優しい笑みになった。 唯「たまに冷たい子だなとは思う事もあったけど、皆の事無視したりなんかはしないじゃん」 直後にいちごの心臓は跳ね上がった。 唯がいちごを抱き寄せたのだ。 唯「それってきっと、いちごちゃんは口下手なだけなんだよね? クラスの皆の事が嫌いなんじゃないよね」 いちご「暖かい……」 いちごは目を閉じて唯の身体の温もりを噛み締めた。 いっそこの優しさに溺れてしまおうか。そんな脱力感すら湧いてくる。 唯「ふふっ、あったかあったか」 そっと頬を擦り寄せてきた唯の髪の毛をいちごは手の中で弄った。 柔らかい癖毛はいちごの指の間をするりと抜けてゆく。 唯「くすぐったいよ~」 唯はほんの少しだけ身震いしながらも、反撃にいちごの脇に手を回した。 いちご「ひゃっ──!?」 脇をくすぐられたいちごは思わず飛び跳ねる。 だが不思議と悪い気はしなかった。 いちごは思う、今暫くは甘んじようと。 決意の元に人間を辞める、その前の僅かな小休止として。 梓「あの……。何処に向かってるんですか?」 姫子「なーいしょ」 梓の前を歩く姫子がちらりと振り向いた。 妖艶とも不気味ともとれる姫子の笑みは梓を不安に駆り立てる。 梓の両脇にはエリとアカネが並んでおり、その後ろをしずかが着いて来ている。つまり……。 梓(もしかして、エリ先輩のお礼参り……!?) そんな思考に至る辺り、梓はそれほど先の叱責を気に病んではいないのだろうか。 今和がいれば間違いなくそう突っ込みをいれるだろう。 しずか「えー……と。梓ちゃんだっけ?」 不意に後ろから聞こえた声に驚きつつも、梓は振り返った。 しずか「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。私達別に……、あなたの事どうこうしようなんて思ってないからさ」 しずかは言いながらもこの状況では説得力は無いか、と内心一人ごちる。 エリ「あれ~? しずかったら小さい子同士だから親近感湧かせてちゃってる?」 いたずらな笑みを浮かべてエリは言った。 だがしずかに身の丈に関する話題を振る事はタブーだった。 しずか「~~~~っ!」 エリ「ちょっ、痛い痛い! いたいったら!」 しずかは半べそをかきながら駄々っ子のようにエリの背中を叩く。 ポカポカという擬音が聞こえてきそうなその光景は、少なからず梓の緊張を弛めた。 アカネ「もう止めなって! あんた達二人が騒ぎ出したら収拾つかなくなるんだから!」 アカネが二人の間に割って入ってゆく。 その様子を姫子はうっすらと微笑みながら見ていた。 梓「止めなくて良いんですか?」 姫子「んーん、いらないよそんなの」 姫子は梓に背を向け、両手を組んで前に突き出し、大きく伸びをした。 姫子「今は暫定的にあの子達の頭として動いてるけど、私こういうの苦手だし」 組んだ両手を解き、頬に纏わりついた髪を払う。 モカブラウンの髪の毛は風に流れ、姫子の表情が露になった。 姫子「好きにさせとけば良いんだよ。私達はそれで大丈夫」 姫子の表情は自信に満ち溢れているようだった。 梓「…………」 自分が直視する事すらおこがましく思えてくる。 いつか自分も、こんな強さを持てるだろうか。 梓はかつて唯と出会って抱いた感情を姫子にも抱きつつあった。 姫子「お、良い風」 吹き付ける風は五人を優しく包み込んだ。 本人は否定してはいるものの、新しく現れたこの勢力のリーダーは間違いなく姫子が適任だろう。 この星の存続すら揺るがす力を持つ姉妹。 彼女らの行く末を側で観測する新たな勢力。 その名は『星の観測者』─スターゲイザー─。 辿り着いた場所は寂れたボーリング場だった。 不況の波に煽られて既に営業はされておらず、一時は不良の溜まり場にでもなっていたのだろう。 壁には落書きが広がっており、酒の缶や煙草の吸い殻が散らばっている。 梓「気味が悪いですね……」 姫子「仕方ないよ。一般人に迷惑かけないでそれなりのスペースがあるところっていったら限られてくるもん」 姫子はカウンターを飛び越え、その奥の扉を開いた。 店のバックヤードとして使われていたであろう狭い部屋が広がる。 そこで三人の生徒が何かの作業をしていた。 キミ子「おっ、遅かったねー。でも丁度良いかも」 褐色の肌の少女キミ子が振り向いた。 壁に張り巡らされた何かの配線を弄っているようで、頬の辺りが若干煤けている。 姫子「直った?」 キミ子「多分ね。よしみちゃん、電源お願い」 病的なまでに肌が白い大人しそうな少女が無言で立ち上がった。 脚立を昇り、ブレーカーらしき装置を操作したかと思うと、仄暗かった部屋が明るくなる。 三花「やったーっ!」 部屋の隅でバレーボールを壁に当てて遊んでいた三花が飛び跳ねた。 姫子「やっとそれっぽくなってきたね」 姫子に遅れて他の三人もバックヤードに入ってくる。 それぞれが何とか座れそうな場所に腰掛けた。 梓「どんだけアクティブなんですか……」 華の女子高生がこんなところで怪しげな活動をしている。 それだけで梓とは無縁の光景だった。 姫子「それじゃ取り敢えず……」 姫子はよしみとキミ子に目配せすると、軽く指を弾いた。 それとほぼ同時に二人が梓の視界から消える。 梓「え?」 ホルスターに手をかける暇すら無かった。 キミ子とよしみは梓を中心に円を描くように駆けた。二人の手に握られているのは鋼鉄の鎖、つまり。 梓「ちょっ、何なんですか!?」 リーダー格である姫子に向けて叫ぶが、当の姫子は唇に指を添えて何か考え込むような目をしている。 キミ子「余所見してる場合じゃないよん!」 よしみ「それともハナから眼中に無い? 心外ね」 片手は鎖をがっしりと掴み、もう片方の拳は梓目掛けて固く握られている。 逃げられる場所は? 上。右。左。前。後。 スペースは狭いながらも無いこともない。だがしかし身体が動かない。 梓「ぐふ──っ!?」 よしみの拳は梓の鳩尾を的確に捉え、キミ子の拳は頸椎を捉えた。 肉弾戦の経験に乏しい梓が二人の攻撃を受け流せる筈もなく、梓はそのまま力無く膝を折り、床に伏した。 梓「な……。何で……?」 畜生、踏んだり蹴ったりな一日だ。 梓はそうやって毒づきたくもなったが鳩尾への衝撃が強過ぎて言葉が紡げなかった。 姫子「へ?」 朦朧とする意識の中で梓が最後に見たのは、素頓狂な表情を浮かべる姫子だった。 16
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聳え立つ二つの巨塔。 まさにそう表現するに相応しい二人は病院内で肩を並べて歩いていた。 和「悪いわね付き合わせちゃって」 澪「いや、これくらいならいつでも付き合うよ」 言いながら澪は和が腰に吊ってある得物にちらちら目を移している。 南極で刀を折られて以来雛鳥にチキンを食べさせているような、どうにも形容し難いむず痒い感覚が澪を苛めていた。 和「……あげないわよ?」 澪「……ワカッテルヨ」 擦れたような片言で返すと澪は大きく溜め息を吐いて。 それから二人の間に会話は無かった。 これから何をするのかを考えれば自然と口数が少なくなるのは頷けるが、和には澪が敢えて沈黙という選択肢を選び取っているような気がして気味が悪かった。 和「ここね」 個室棟の一角で和が足を止める。 ネームプレートに書かれた名前を見て澪は一瞬だけ眉を顰めたが、直ぐに何事も無かったかのような無表情に戻り、静かに腕を組んだ。 和「この後に及んで抵抗するようなら迷わず殺して。私の手には負えないだろうから」 澪「ん……」 部屋の主は静かに佇んでいた。 普段二つ結びにしてある髪の毛は乱れたまま放置しており、彼女の瞳はただ虚構だけを映している。 和「凄い変わり様ね……。アンタ一体この子に何したの?」 澪「覚えてないな。あれから色々あったし」 何をするでもなくただひたすらに惚けていた少女は蚊の鳴くような声で呟く。 いちご「……ここに来て初めてのお客さんね。コーヒーでも淹れようか?」 和「──っ」 和は何か言いかけたが澪がそれを片手で制す。 粗末なパイプ椅子に腰掛け、優しく微笑むと澪は言った。 澪「うん。お願いするよ」 小さなマグカップに注がれたコーヒーは泡がやけに窪んでおり、インスタント特有の饐えた匂いがした。 和「……酷い匂いね」 澪「辛辣だな。死人に鞭打ってるようなもんだぞ」 二人のやり取りなどどこ吹く風といった様子で、いちごは首を上下に揺らしている。 抜殻のようなその姿からはかつての天災的な風格は微塵も感じられない。 和「そういう澪も多少の罪悪感はあるんじゃない? あんなに早くこの子の壊れ具合に気付けるって事は、つまりそういう事なんでしょ?」 澪「掘り下げないでよ。人から出されたものにケチつけるのは感心しないって事。別に他意は無いさ」 澪は饐えたコーヒーに怖々と口をつけ、なるべく舌に触れないよう素早く飲み込んだ。 それでも鼻孔を突き抜ける不快な香りに澪は眉を顰める。 和「無理しなくても良いわよ。ただ見舞いに来たってわけじゃないんだから」 澪「良いよ、好きでやってる事だし」 和から差し出されたミントのタブレットを数粒受け取り、一気に噛み砕くとつんと舌を刺激した。 いちご「何の話してるの? もしかして私何か悪いことしちゃったかな……」 あどけない表情を浮かべるいちごを見て和は無性に腹が立ち、澪は哀れに思う。 和「……代わりに聞いてくれない?」 澪「……晩ご飯奢ってもらうよ」 和は澪に耳打ちすると窓際に腰掛け、片手でその表情を覆い隠した。 しっかりしてくれよ、と澪は内心呟く。だがいちごがこうなってしまった原因が自分に帰結する事を考えればそんな我儘は言っていられない。 澪「何から話そうかな……。取り敢えず、私の名前は分かる?」 いちご「……秋山さん」 訝しげに首をかしげつついちごは答えた。 澪「外れだよ。私は真鍋 和さ」 いちご「……? 秋山さんは秋山さんだよ?」 いちごの表情が陰る。 硝子細工のように繊細な動きを見せる彼女の表情はきっかけさえあれば簡単に壊れてしまいそうだった。 澪「ん、正解だよ。私は秋山 澪だ」 意思疎通に若干の不具合はあれど気にするレベルではない。 いちごに他人をしっかり認識する能力が残っている事を確認した澪はいきなり核心に触れようとしていた。 澪「思い出せる限りでいいから答えて」 いちごの手を握り、澪は言う。 澪「君はここ一ヵ月、何をしてたんだ?」 澪の手の中でいちごの手が震えた。 いちご「…………」 視線は澪と和の間を行き来し、呼吸が徐々に荒くなる。 未開の地に一人取り残された子どものように、全ての挙動がぎこちなく変わっていった。 いちご「私は……。寒いとこで……っ」 偏頭痛のような不快な痛みがいちごを襲う。 いちご「あれ……? なんで……っ? 思い出せない、よ……」 いちごの頬が赤く染まり、眼に涙が溜まってきた辺りで澪がいちごを優しく抱いた。 澪「いや、無理して思い出さなくても良いんだよ。ほらゆっくり息吐いて」 背中を擦り、いちご掌を握る力を強める。 脇目で和を見ると、彼女は深く考え込むように顔を伏せていた。 着いて来るんじゃなかった。 澪は舌打ちしてしまいたくなる気持ちを抑えて再びいちごに意識を向けた。 澪「駄目だったな」 和「そうね」 ファミレスの一角で二人はちびちびとコーヒーを啜っていた。 澪「にしても……。まさかあんなに取り乱すとは思わなかったよ。やっぱり無意識にあの時の記憶を身体が拒絶してる、のかな?」 和「……脳震盪起こした事ある? 記憶が飛ぶレベルのやつ」 表情を変えないままの問い掛けに対し、澪は過去の記憶を整理する。 澪「……入学式の時と、去年の体育祭の時。うん、二回あるよ」 和「体育祭か。そういや、去年は唯と当たってたわね」 澪「唯は手加減を知らないからな。ここからここまでぱっくり割れてさ、あの時は大変だったよ。で、それがどうしたの?」 澪は眉尻から髪の生え際まで指でなぞり、からからと笑った。 和「脳震盪とかで飛んだ記憶って医者からは思い出そうとしたり人から聞いたりしてはいけないって言われるでしょ? 記憶が混濁してパニクっちゃうから」 澪「ああ、そういえば言われたかも」 和「つまり、何となく探り入れてみたけどあれは一番やっちゃいけなかったのかもしれないわね……」 それを聞いて澪の眉間に皺が寄った。 澪「私が悪いって言い──」 和「違うわ。深刻な状況だって分かっただけでも充分感謝してる」 澪の言葉を遮り、和は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。 和「記憶が飛んだ原因が心因性か否か、後はそれさえ分かればあの子を元に戻せるわ。そうすればあの子の当初の目的も、胸の蟠りも全て晴れる」 澪「…………」 事は終わったにも拘らず胸の中を苛める蟠り。 それは和だけではなくあそこに居た澪以外の者全員の胸に潜んでいた。 澪「……心因性だな」 澪は極寒の地。人の理解の範疇を越えた者同士の闘いの場で何が起きたのかを、誰にも語らない。 澪「私はあの時あの場所で、あの子の心を壊したんだ」 人の闘いが終わり、一対の龍の世界すら巻き込まんとする闘いが始まろうとしている事など、知らない方が幸せだと思ったから。 和「そんなところでしょうね」 だが仮に皆がそれに気付いたところで澪は止めたりはしないだろう。 全ては脚本の導くままに、胸に蟠りを残した物語は綻ぶ事なく突き進もうとしている。 それに逆らうことなど、誰にも出来はしない。 36
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ソードブレイカー メモリ容量 2,142 耐久値 6,470 防御力 429 バレット防御 481 レーザー防御 115 飛行速度 8,940 飛行ブースト速度 9,240 ブーストSTM消費 122 ダウン耐性 193 STM回復性能 116 炎上耐性 98 帯電耐性 219 アシッド耐性 98 重量 319
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新しい上司はケロン人、ボディランゲージは歯が立たない ◆NQqS4.WNKQ 闇に覆われた森の中を、息を切らせて走る人影が一つ。 僅かに息を切らせているもののその足取りはしっかりとしたものであり、その人影がある程度の修練を積んでいる事が見て取れる。 闇に動くその影は、『一箇所』を除いて、まるで無駄がなく引き締まった体つき。 そう一箇所、その箇所が人影の性別を雄弁に語る。 ……胸部の豊かなふくらみ、人影は女性であった。 木々の隙間から僅かに差し込む月明かりによって映し出されるその顔つきは、まだ少女と呼んでも良い年頃であろう。 強い意志の光を見せる碧の瞳。 短くショートに揃えられた髪型と相まって、あたかも少年であるかのようにも見える、整った顔立ち。 恐らくは、彼女の身を包む枯色の女性制服と前述の身体的特徴がなければ、彼女を見た人間の半数は少年と勘違いしたかもしれない。 そのボーイッシュな少女、名をスバル・ナカジマと言った。 (なのはさん……、フェイトさん……) 心中に戸惑いと動揺を抱えながらも、元来の性格故か行動に不備は起こらず、スバルは森の中を一心不乱に駆け抜けていた。 突然告げられた、殺し合いという状況。 人の身体が、液体に変化すると言う怪奇な現象。 それらが、彼女の思考から冷静さを奪っていた。 とはいえ、彼女は未だに至らぬとはいえ時空管理局の局員であり、憧れのエースオブエース、高町なのはの部下である。 あの場に居た二人の命令に従うなど、最初から考えも付かないことではあった。 むしろその逆、管理局の一員として、そして幼き日の憧れに従い、困っている人を助ける。 それが、彼女の至った思考であった。 そして、彼女は今走っていた。 元よりじっとしているのは性には合わない。 捜すのは、最初の時に見かけた憧れの人とその親友。 そして、何よりも力無い人々を救う、その誓いの為。 彼女は猪突猛進、全力全開で走っていた。 そう、正に猪のごとく、真っ直ぐに、わき目も振らずに。 故に、 「……はえ?」 彼女は、気付けなかった。 ソコに、己を命を奪うものがあるという事に。 「ええええええええええええ!?」 ビターン! と見事な効果音を立てて、スバルは頭から真正面に転んだ。 コントであるなら大笑いが起こるような、見事な転び方であった。 左足は、木と木の間に張られた蔦に引っかかっており、これが転倒の原因であろう。 もう片方の足は膝の角度が綺麗に45°を描いており、勢い付いて居た為か、スカートの隙間から下着がのぞきかねない状態であった。 両の手は万歳のポーズのように綺麗に地面に付けられており、見れば見るほど見事な転倒姿勢と言わざるを得ないだろう。 「うう……いたた……一体何ー?」 少しして、顔をさすりながら、スバルは状態を起こす。 闇の中であり、見通しの悪い森の中である。 地面近くに張られた蔦など見えるはずも無く、スバルには何が起きたのか理解の外であった。 そう、これが、状況を理解していたならば、少しは違ったのかも知れないのだが。 「動くな」 言葉と共に、未だに起き上がれないスバルの後頭部に、硬いモノが押し付けられる。 スバルの心を、驚愕が襲う。 つまり、先ほどスバルが転んだのは、 「あれほど簡単に引っかかるとは思わなかったが……軍人失格だな」 この、やたら渋い声の男の仕業という事だ。 視界の悪い森の中、そしてそこにある人の通る道。 材料はそのあたりの木に巻きついている蔦で充分。 実にシンプルな罠に、スバルは掛かってしまったという事だ。 「勇猛なのは良いが、注意力が無ければそれは唯の蛮勇に過ぎん。 戦場では真っ先に死んでいくタイプだな」 そう、この時スバルは冷静な判断力に欠けていたと言えよう。 ここは殺し合いの場。 命のやり取りを行なう間違える事なき戦場である。 その戦場を、武装もせず注意もせずに走りまわっていたのだから、これは自殺行為といえよう。 その結果が、この現実。 男が指を僅かに動かすだけで、スバルの命は容易く奪われる。 「さて、最期に言い残す事はあるか?」 男は、あくまで冷静に、何の感情も見せずに、冷酷に告げた。 (……死ぬ?) 死。 スバルの世界においては、戦闘とはあくまで非殺傷を旨とした魔法によって行なわれるもの。 故に、軍人ではありながらも、死とはある意味遠い存在ではあった。 その死が、今スバルの間近に存在している。 七年前、高町なのはに助けられたその時と同じ様に、いや、それよりももっと間近に。 (わたし……ここで?) 暗く、冷たい、死の感触。 それが、後頭部から、全身へと伝わり、スバルの力を奪う。 死、終わり。 そう、これで終わり。 誓いも果せぬまま、強さの意味も知らぬまま、ここで終わる。 (そんなの……) スバルの右足から、僅かな光が生まれる。 青いその光は、あたかも光のベルトのように踵から流れ出し、 「いやだあーーーーー!!」 スバルの後頭部に押し付けられている筒を、弾き飛ばす。 光のベルト 正式名称は『ウイングロード』と言い、スバルが得意とする魔法である。 魔力により、空中に『道』を生み出すスバルとその家系の固有魔法。 本来は移動用の魔法ではあるが、そのその道を生み出す魔法である故に、無論物理的な影響が存在する。 この場合はソレを男の妨害に使用したという事だ。 「む!?」 男が、僅かに驚愕の声を漏らす。 だが、そんなことには構わずに、そのまま光の流れに合わせるように、後ろ回し蹴りの要領で振りぬく。 と同時に、右手を握り、裏拳として相手に振り回す。 拳と脚、同時に突き出す事によって威力が分散されてしまうが、この場合は相手に当てて体勢を崩す事が重要。 加えて、半身を勢いよく回転させることによって、その反動を利用し、身体を起こす。 絶対的に不利な体勢からの、起死回生の一撃。 少なくとも、これで五分と五分な状況までは持っていける 「成る程、動きは悪く無い」 筈であった。 男の身体が、想像以上に小さくなければ。 男は、僅かに驚愕を覚えたスバルに構わず、彼女の右袖を掴み、そしてスバルの勢いを利用して、 「わわっ!?」 一本背負いの要領で、投げ飛ばした。 くるりと綺麗に一回転して、地面に叩きつけられるスバル。 衝撃が全身を襲い、呼吸もままなら無い。 今度こそ、どうしようも無い。 それでも、何とか諦めずに男の顔を睨みつけようとして、 「………………へ?」 固まった。 スバルの思考は、完全に停止した。 男の手に握られていたのは、銃ではなくて、木の棒であった。 それはいい、だがそれよりも、 「戦場では、諦めた者から死んでいく。 そういう意味では、お前の不屈の意志は戦士としての条件を満たしているといえるだろう、スバル・ナカジマ二等兵、いや二等陸士だったか」 そこにいたのは、一言で言うならば直立したカエル(?)であった。 ついでに、よく判らないがやたら強面で男前であった。 □ 男、その名はケロン軍所属A級侵略部隊隊長、ガルル中尉。 ケロン軍とは、ケロン星を中心とする強大な軍事組織の事であり、ペコポンこと地球にもその手を伸ばしている。 その中でも彼ガルルは、『ゲロモンの悪夢』とも称されるケロン軍最高精度スナイパーであり、誇り高きケロンソルジャーでもある。 「俄かには信じがたい話だが、そうなるとこの現状にも多少説明はつくな」 『理解が早くて助かります、二尉殿』 その彼と話しているのは、彼に支給された謎の赤い宝石、名を『レイジングハート・エクセリオン』 ガルルにとっては未知のテクノロジーによって製造された、小型の機械であった。 ガルルにとって、スバルら地球人(スバルは厳密には違うが)通称ペコポン人は、一応敵対種族という事になる。 最も、そのテクノロジーには天と地ほどの開きがあり、そもそも戦闘になる、という自体があり得ないレベルではあるのだが。 加えて、彼は誇り高い軍人である。 民間人を殺す事など容易いが、それは彼の矜持とは激しく対立する行為だ。 故に、彼には最初から殺し合いなどするつもりは無かった。 そして、彼は支給された謎の宝石との会話により、多元世界というモノと、彼女(?)の知り合いについて予め知っていたということだ。 故に、仕掛けておいた簡単な罠に引っかかったの少女の名を、予め知っていたという事だ。 □ 「だが、周囲をよく見ずに進むのは無用心すぎる。 慎重さに欠けるものは長生き出来んな」 倒れたスバルに構わず、言葉を続けるガルル。 相手が若い下士官故に、教え諭すような話になっているのはご愛嬌。 「だが、体力、技術においてはなかなか優秀である事は確かなようだ、ならば、ム?」 なおも続けようとするガルルの言葉が、遮られる。 何故か、それは。 「……何を、している?」 「いや、マイクはどこかなーって」 「………………」 当然のごとく、この場に居るもう一人の人物、スバル・ナカジマ。 どうやら彼女は、ガルルをぬいぐるみか何かと判断し、中の人を捜しているようであった。 ……数分後 「相手を見かけで判断する事ほど愚かな事は無い。 よく覚えておく事だ」 「い…いえっさー…………中尉殿……」 ボロボロになったスバルが、地面に倒れ付す。 特に外傷は無いのだが、何故かやたらボロボロであったという…… 【J-5 林道/一日目、未明】 【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】 【状態】多少疲労 【持ち物】 デイパック(支給品一式入り) 【思考】 1.人殺しはしない。 2.い…いえっさー…………(バタ) 【備考】 ※まだデイパックを見ていません。 最初の場所でなのはとフェイトの姿だけ見ています。 ※登場時期は、ヴィヴィオがなのはに保護された以降です。(細かい時期については次回以降の書き手さんにお任せします) 【ガルル中尉@ケロロ軍曹】 【状態】健康 【持ち物】落ちていた枝、デイパック(支給品一式、レイジングハート・エクセリオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、不明支給品×0~2(本人確認済み)) 【思考】 1.ケロンソルジャーとして秩序ある行動を取る。 【備考】 ※登場時期はペコポン撤退以降 ※レイジングハートより、なのは関係の知識を得ました。 そして、ガルルのデイパックの中では、 『All right……』 紹介のタイミングが飛ばされたレイジングハートが、孤独に光っていたという。 時系列順で読む Back 0号ガイバーの憂鬱 Next ファースト・アラート 投下順で読む Back 0号ガイバーの憂鬱 Next ファースト・アラート GAME START スバル・ナカジマ 銃弾と、足音 GAME START ガルル中尉
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このページはこちらに移転しました わがままボディー 作詞/451スレ162 ふらりビデオ屋に立ち寄って エロコーナーの引力に引きずられた 手に取ったパッケージには わがままボディーの文字 わがままボディーってなんだろう 脳の命令聞いてくれないのかな わがままな人の体なのかな 謎は深まるばかり わからないから今夜は 二次元にお世話になる事にした わがままボディー わがままボディー
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VIPミニ四駆スレ的マシン解説 【基本データ】 ●全長130mm ●全幅93mm ●Item No:18072 ●本体価格1,000円 ●2012年7月7日(土)発売 【本体内容】 往年の名車、ファイヤードラゴンJr.がVSシャーシで遂にリメイク!! シャーシはシルバーのABS製。Aパーツもシルバー。 ホイールは蛍光ピンクのマンタレイタイプに、タイヤはホットショットJr. (MSシャーシ)と同じピンスパイクタイヤ。 ギヤ比は4.2:1。モーター付き。 真っ赤なボディはメタリックレッド、ステッカーはメタリック調のホイルシール。 ブラックの二段低摩擦プラローラーをセット。 【漫画、アニメでの活躍】 漫画、ラジコンボーイ登場のRCのミニ四駆版の焼き(ry ミニ四駆漫画ではあまり出番がない 【VIP内での評価】 や っ と 出 た な プレミアムとつくキットでは、何故かドラゴンシリーズだけがVSシャーシである。 さらに、他のレーサーミニ四駆のリメイクはRSとつく事が多いのに、何故かドラゴンシリーズやザウルスマシンはフルカウルのリメイクと同じようにプレミアムとつく。 違いは原作の有無? ・・・と思われたが、レツゴマシンのスーパーアバンテはRSなんだよなぁ。 【公式ページ】 http //www.tamiya.com/japan/products/18072firedragon_prem/index.htm 【備考】 元キットも後継のサンダードラゴンが先にリリースされるという変な立ち位置だったが、このキットもセイントドラゴンの後にリリースという立ち位置に。 ただ、締めにあえて持ってきたとも言えなくもないのでなんとも言えない・・・ ボディはARシャーシ対応。 元キットは対応していない(らしい)ので、載せるならこっちをドゾ。 何故かAOパーツでコイツのステッカーが販売されている。 プライズ版も登場。 クリヤーボディは長らく入手困難であったが、2017年にポリカボディ同梱版が限定発売された。
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恵「赤、青、黄、緑。闘気は通常これら四つの種類に色分けされていて、それぞれ違った特色を持っているの」 軽音部の部室にて六人が一同に会していた。 備え付けられたホワイトボードには四色の円が描かれている。 恵「赤は炎。青は水。黄色は土。緑は風。それぞれの闘気はその四大元素に干渉していると伝えられてるわ」 律「じゃあその闘気をマスターすれば手から炎出したり出来るんですか!?」 律は新しい玩具を目前にした幼児のように目を輝かせた。 その様子を見て脇にいた和がくすりと笑った。 和「そんな魔法があっさり使えればこの世は資源不足になんかならないわよ」 軽く窘められた律はつまらなそうに舌打ちすると、僅かに浮かせた腰を椅子の背もたれに預けた。 恵「感受性次第、よね。そもそも闘気自体普通に生活していれば気付く筈が無い代物なの。そんな繊細な力を扱うにはその宿主も繊細じゃないと……」 律「……ってことは」 言いかけて律は肩を竦めた。 澪「そのがさつな性格を何とかしないとな」 澪は窓際の椅子に腰掛け、足を組んだその上で頬杖をついている。 表情はフードの中にすっぽりと隠れており、彼女の心境を鑑みる事は出来ない。 律「だよなぁ……」 普段は食ってかかる律もこの時ばかりは気が気ではなかった。 紬「まぁまぁりっちゃん。三つ子の魂百までって言うし」 梓「ムギ先輩……。それフォローになってませんよ」 律「やめろよ……。そんな目で私を見るなって」 同情の視線が今の律には痛々しく思えた。 和「その点ではあの子は飛び抜けてるからね。センスやポテンシャルで言えば私よりも良いモノ持ってるわよ」 恵「そりゃそうよ。私の『可愛い後輩』だからね」 恵は唇に指を添えて微笑み、ぼんやりとしている澪の方を見た。 恵が澪を見る時の表情の何とも言えない艶めかしさに一番始めに気付いたのは紬だった。 紬「その……。お二人、何かあったんですか?」 紬の素頓狂な質問に部室に居た全員は一斉に紬の方を見た。 紬「何ていうかその……。上手く言葉には出来ないんですけど……」 自分と同じ匂いがする。とは口が裂けても言えなかった。 そんな紬の心境を悟り、恵は少し意地が悪そうな笑みを浮かべて言う。 恵「何があったっけ? 澪ちゃんは覚えてる?」 投げ掛けられた質問に対して澪は反射的に手で顔を覆った。 その拍子に被っていたパーカーのフードが外れる。 澪「……っ。止めて下さいよ恵先輩……」 覆われていない耳の部分は真っ赤に染まっており、震える声からは明らかに動揺している事が分かる。 紬「まぁっ!」 紬の表情が打って変わって爛々としたものになる。 それに少し遅れて梓が引いたような視線を澪に送る。 律「あ? なにがどうなってどういう事だってばよ?」 梓「……だから律先輩はがさつなんですよ」 子馬鹿にしたような梓の呟きを律は聞き逃さなかった。 一秒にも満たない時間の間に律は梓の頭を腕で締め上げる。 律「なぁかぁの~!!」 梓「ちょ……っ。痛い! ごめんなさい! 痛い痛い痛いっ!!」 容赦無い締め上げに梓は泣き言を漏らした。 その様子を眺めつつ、恵と和は溜め息をつく。 和「困った子達ね……」 恵「あら、でもこういうのも悪くないんじゃない? 少し嫉妬しちゃうな」 ほんの少し哀愁が漂う憂いを帯びた笑みを浮かべ、恵は澪の方を見た。 澪「…………」 澪はどこかつまらなそうな表情で、椅子の上で抱えた片膝に顎を乗せている。 和「……世界から取り残されてまで得た力に、意味なんかあるんですかね?」 恵「これからこの子達を巻き添えにする人間の台詞じゃないわね」 恵がそこまで言ったところで、今まで黙っていた純が口を開く。 純「深く考えることないんじゃないですか? 無駄な深読みはお腹空くだけですって」 からからと笑う純の言葉に、恵は深く頷いた。 恵「闘う相手がいる内は何も考えずにぶつかりなさい。分からないモノを模索したって破綻するだけなんだから」 恵はそう言うと我が子を見るかのような優しい表情のまま、部室を一瞥した。 しずか「こほっ……こほっ……」 時を同じくして、木下しずかは校舎の屋上で大の字になって寝そべっていた。 コンクリートの足場の冷たさが、今の彼女には少し心地良く感じられた。 しずか「血が……足りない、かな……?」 しずかが着ている学校指定のブレザーは既に使い物にならないほどに切り裂かれている。 その切り口の隙間からは赤黒い血が滲んでいた。 しずか「えへへ。これで、やっとトップランカーだね……」 しずかは力ない笑みを浮かべて、自分の両脇で倒れている二人の生徒を見た。 しずかの右隣で倒れているのは木村文恵。 超好戦的かつ残忍な戦闘スタイルとその卓越した剣捌きから『辻斬り』と呼ばれ恐れられた少女だ。 彼女の両手の甲にはバタフライナイフが刺さっており、綺麗に足場に穿たれた形になっている。 背中には一際大きな傷がついており、そこから夥しい量の血が流れていた。 しずか「真っ先に心臓狙ってくるんだもん。びっくりしちゃうよ」 しずかは虚ろな瞳で文恵の手元に転がっている刀を見た。 刃の中心部には大きな亀裂が走っており、あとほんの少し力を加えればたちまちに折れてしまいそうだ。 しずかはそのまま視線を真逆に移した。 視線の先には長い黒髪で眼鏡をかけた少女が仰向けに倒れている。 しずか「……私の首はあげないよーだ」 高橋風子の二つ名、『死神』の大元のルーツとなる黒塗りの大鎌は、彼女の手元で真っ二つに折れている。 力無き者に無慈悲なる裁きを下す死神は、両足の腱を切り裂かれて全ての肋骨をへし折られていた。 しずか「……ふふん」 少し誇らしげなその表情は小さな体躯のしずかを更に幼く見せる。 しずかはボロボロのブレザーのポケットをまさぐり、携帯電話を取り出した。 アドレス帳のハ行にある名前をクリックし、電話をかける。 通話先の人物はきっちり三コールで電話を取ったようだ。 しずか「姫子……。私一人でやれたよ。トップランカーになれたんだよ」 絶え絶えになっている朦朧とした意識の糸を握り締め、しずかは喜びを姫子に伝える。 しずか「うん。うん、でも迎えに来て欲しいかなー、なんて。もうクタクタで動けないや……」 電話越しに聞こえる姫子の声は、確かにしずかを勇気づける。 しずか「屋上だよ。うん、じゃあまた──」 言いかけたところで携帯電話はしずかの手から滑り落ちた。 川の字になって寝そべる三人から流れる血は、血の川を作り上げている。 平沢 唯は夢を見ていた。 床に着いて意識を手放し、そしてその意識が覚醒した瞬間唯はこれが夢なのだと悟った。 上を見上げてもそこには空も天上も無かった。 ただ真っ白な空間だけが無尽蔵に広がっている。 足元を見ると工場付近の溝川のように虹色に濁った液体が広がっていた。 あらゆる物理法則を無視し、彼女はその上に立っている。 『おはよう。或いはおやすみ、かな?』 初めからそこにいたかのように、それは唯の目の前に現れた。 少し癖がある茶髪。やや起伏が控え目の身体。白くも黒くもない、日本人らしい黄色の肌。 唯の前に現れたのは唯だった。 ただ一つ、彼女と唯にある明確な違いを挙げるとするならその瞳だろう。 純真無垢な黒真珠のような唯の瞳とは違い、彼女の瞳にはキャンバスにぶち撒けた黒の絵の具のような漆黒の濁りがあった。 唯「君は……?」 『皆まで言うなよ唯。私に名乗る名前なんて無い」 自分の名前を呼ばれて唯は一瞬どきりとした。 だがこれは夢なのだ。そんな思い込みと持ち前の肝の太さでその動揺は直ぐにかき消された。 唯「じゃあ何処かの誰かさん。此所は一体何なの?」 唯の質問に対して彼女はからからと笑った。 自分と同じ顔が目の前で表情をころころと変えているその異様なシチュエーションに唯はどぎまぎする。 『何処かの誰かさん、ね。こりゃ良いや、私は今日からそう名乗る事にしよう。……と、お前の質問に答えるならば、此所は『全て』であるとでも言っとこうかな』 回りくどい喋り方に唯は内心いらいらしていた。 唯は気が短い方ではない。 だが彼女は温厚な唯すらも苛立たせる妙な不快感を持っていた。 『そうかりかりしなさんなって。私は何千年も生きてきたわりにはオツムの方はからっきしなんだ。此所が何たるかを分かーりやすく説明出来る語彙力なんか持ち合わせてないよ』 まぁオツムが弱いのはお互い様か。後に付け加えたその言葉は唯を更に苛立たせる。 『ここはお前の家でもあるし軽音部の部室でもある。はたまた修学旅行でお前が見た清水寺でもあるし国会議事堂でもあるんだぜ?』 言いながら彼女は指を鳴らした。 その渇いた音と共に回りの景色がスクロールされてゆく。 慣れ親しんだ軽音部の部室。毎日憂と他愛ない談笑をしていたリビング。東京タワーに凱旋門。コロッセオにナスカの地上絵。 景色の暗転が十階を越えたところで唯は反応を示さなくなった。 『分かったか?』 唯「分からないよ」 唯は機械的に即答した。 感情や礼儀が籠っていないその返事は普段の彼女からは想像出来ない冷淡さを持っている。 『……全てと繋がり、全てが集う場所とでも言っておこうかな。頭の悪い私がこうやって頭使ってるんだ。ちょっとは感謝しろよ?』 次第に相手にする事すら億劫になっていた唯は何も答えなかった。 『……まぁ良いや。んじゃそろそろ本題に入ろうかな。お前がここに来た理由、或いは私がここに居た理由を教えてやるよ。どっちが知りたい?』 唯「どっちにしても同じ事なんでしょ?」 『ご名答。このシチュエーションを作り上げた因果が何であろうとどうでも良い。物語には関係無い事だからな』 彼女は再びからからと笑う。 唯は口を真一文字に閉じる。 『まぁなんだ。立ち話もなんだしお茶でも飲もうか。好きだろ?』 彼女が指を鳴らすと軽音部の部室が現れた。 いつも五人で茶を啜っているお馴染みのテーブルには二つのコップが置かれており、琥珀色の液体が湯気を立てている。 唯「私はいらないよ?」 『そうか。なら飲め、今直ぐに』 唯「っ!?」 唯は自然な動作で椅子に座り、テーブルに置かれたティーカップに手を伸ばした。 だがその動作とは裏腹に、表情は狐に化かされたかのように困惑している。 唯「~~っ!?」 自分の意志に背き、身体だけが一人歩きしていた。 琥珀色の液体は唯の口内に流し込まれ、喉を通ってゆく。 唯「こほっ……」 至って普通のレモンティーなのだが、今の唯にはそれが得体も知れないモノに思えた。 込み上げる不快感から思わず噎せ返る。 『ぎゃっははは! あんまり私に否定的な態度ばっかりとるなって。つんでれってのはもう終わったコンテンツなんだろ?』 大仰にテーブルを叩きながら彼女は言う。 『私は親切心からお前に忠告する為にこの環境を作ってやったんだぜ?』 唯「忠告?」 唇に手を添え、無意識に警戒したまま唯は尋ねた。 彼女はその僅かな猜疑心すら見透かすようにじっと唯を見据える。 『若王子 いちご。あいつに心を許すな、人間だと思うな。その胸の傷が癒え次第直ぐにあの女を殺せ』 唯の喉を何か冷たいものが通り抜けた。 絶対零度を越えた死の冷たさが唯を襲う。 唯「──っ!」 唯は震えて感覚が薄れてゆく身体を唇を噛み締める事で奮い立たせた。 それでも唯の胸を這い寄る死は薄れない。 『怖いか? 怖いだろ? それはお前が私に敵意を持ってるからなんだよ。早く楽になっちまえ、私はお前にとって悪い事なんて言わない』 唯「……うるさいよ」 猫撫で声で詰め寄る彼女を睨み付け、唯は手に持つティーカップに力を込めた。 ティーカップは音を立てて割れ、空中で粉になる。 『何で抗う? いつも無意識で最良の道を選んで来たじゃねぇか』 唯「私の人生が最良だなんて思った事はないよ」 『涙が出る程怖いだろ? その涙の理由を変えたいとは思わないのか?』 唯「泣きたくなる気持ちを捩じ曲げてまで逃げたいとは思わない」 『力への意志。お前にはそれがあるだろう? 生ある者にしか最強は訪れないぞ』 唯「望まれない最強になるくらいなら、私は最弱でも皆と笑いたいよ」 『死んじまったらお前が笑えねぇだろうが』 唯「私は死なないよ。いちごちゃんの事も信じた上で笑ってみせる」 『ふざけるな』 唯「ふざけるよ」 永遠、或いは刹那とも感じられる二人の間の問答は不意に終わりを迎えた。 『……良いぜ。お前がほざいてる事が全部強がりだって事を教えてやんよ』 世界が硝子細工のように脆く崩れ去り、全てが虚構に消えた。 唯は得も知れない何かと向き合う覚悟をした。 だがその覚悟すら闇に溶けていったのだ。 『お前は私だ。だからお前の気持ちなんて尋ねるまでもねーんだよ』 彼女は一歩唯に詰め寄り、両方のこめかみを指でがっちりと固定した。 唯「え?」 胸を這う死の恐怖がいよいよ現実のものになろうとしている。 だが唯はそれに対して悲鳴を上げる事も出来なかった。 『だがお前は私じゃない。おこがましい真似はそれくらいしとけよ? 取り敢えず今はさよならだ。私の器』 彼女の指がゆっくりと唯の頭部に侵入してゆく。 脳を冒す絶望と苦痛。 それを感じる手前で唯の頭は粉々に砕け散った。 唯「……あ」 目を開くと唯の眼前には真っ白な天井が広がっていた。 唯「…………」 彼女に会う前に感じていた、あれは夢だという独特な感覚は消え失せていた。 ぐちゃぐちゃになった拙い思考回路ながらも彼女は考察し、思う。 唯「……夢じゃない」 夢じゃない。だが現実でもない。 唯と彼女が居たあの空間は、そんな陳腐な定義すら打ち崩す超越したモノなのだ。 いちご「適応率が七十パーセント越え……?」 あちらこちらからむき出しのケーブルが飛び出ている怪しげな研究室。 いちごはその中央に鎮座するモニターを訝しげに見つめた。 斎藤「一過性のものでしょうか? 鎮静剤を投与しますか?」 いちご「……いや、いい」 唇に手を添え、何か考え込むような仕草を見せると、いちごは脇に備えられたパソコンのキーボードを叩いた。 いちご「現段階で『エデンシステム』は適応率九十三パーセントまでは耐えられる筈。むしろ『龍』の力を多く補給出来るし、好都合よ」 パソコンのディスプレイが暗転し、透明のカプセルが映し出された。 いちご「或いは一過性でなくても、この状態を保てれば完成が大幅に早まるわ」 カプセルの中には木を手の平ほどの大きさに縮めたようなモノがあった。 葉の一枚一枚がうっすらと光を放っており、神々しさを放っている。 いちご「ねぇ斎藤」 斎藤「はい」 いちごの呼び掛けに斎藤は一歩前に出て背筋を伸ばした。 いちご「あなたはアダムとイヴの逸話を知ってる?」 斎藤「その手の話には疎いもので……。大まかな事しか存じておりません」 いちご「そう。ならそれでも良いわ」 いちごはパソコンの前の丸椅子に腰掛け、くるりと斎藤の方を向いた。 いちご「サタンに唆され、知恵の実を食べた愚者は楽園を追いやられた。永遠と幸福を奪われてね」 空想のアダムとイヴ、そして林檎の木と蛇の悪魔を思い浮かべ、いちごはそっと目を閉じた。 いちご「限られた命という呪いを架せられたアダムとイヴの子孫である私達も、その咎を悔い改め続けなければならない」 目を開き、無機質な天井を仰いで目を細める。 いちご「馬鹿らしいとは思わない? 覚えの無い罪を勝手に背負わされて、確実にやってくる死に怯えなければならないなんて」 斎藤「……しかし人は死にます。それは覆らない道理なのでは?」 いちご「愚か者はそうやって思考停止してると良いわ。私は愚者のままではいたくない」 失望の意を隠す事もせず、いちごは冷たい瞳で斎藤を睨んだ。 いちご「知恵の実を食べた愚者の子孫である私達の宿命。それは生命の実を創る事よ」 斎藤「……『エデンシステム』ですか」 斎藤はサングラス越しにモニターを見据えた。 映し出された禁断の林檎の木が、途方もなく悍ましいものに見える。 いちご「そう。私はこの『エデンシステム』で神に反逆する」 そして斎藤は生命の実を創ろうとしているいちごに、恐怖を越えた感情を覚えた。 斎藤「……私には分かりません。そこまでしてこの世に居続けたい理由は何なのでしょうか?」 いちごは一瞬口を噤んだ。 そして何処か悲しそうな顔をして、くるりと斎藤に背を向ける。 いちご「……それで皆が幸せになれるからよ」 斎藤「はたしてそうでしょうか? 常套句ではありますが、限りある命こそ尊いと私は思います」 斎藤が言い終えると同時に、いちごはキーボードを強く叩いた。 いちご「あなたの大切な人が死んだ時、同じ台詞が吐ける?」 斎藤「私にそのような方は居ません」 いちご「私にもまだ居ない。でも生きていればきっとそんな人が現れると思うの」 いちごは一瞬だけ身震いした。 いちご「その人が急に私の前から消えたら……。想像しただけで気が狂いそう。誰もこんな思いをしちゃ駄目なの」 斎藤「しかし……」 斎藤は何か言い掛けて口を閉ざした。 いちご「……世迷い言。ごめん、忘れて」 いちごは二つ結びにした髪の毛を弄り始める。 いちご「下がって。少し一人になりたい」 斎藤は二つ返事で踵を返し、研究室を後にした。 無機質な天井はまだ続いていた。 斎藤「平沢 唯を利用する事で悲しむ人間は、この言葉を聞いたら何を思うのだろうか……」 黒いスーツの内から煙草を取り出し、少しためらいながらもそれを口に咥え、火を点けた。 斎藤「夢を見るのは自由……か」 斎藤は紫煙をくゆらせながら歩く。 その背中は心なしか小さく見えた。 怪しげな雰囲気を醸し出す夜の繁華街。 純はブレザーの上から無骨なライダースジャケットを纏い、ジップを首元まで上げている。 そんなアンバランスな格好でこんな怪しげな通りを歩くのには理由があった。 純「……暑いっつーの」 第一の理由は生徒会による見回り。 先の一部の生徒によるテニス部への暴力事件の被害者が、この近辺のいかがわしい店で働かされているとの情報があったのだ。 しかしいくら世間の桜高の生徒に対する視線が畏怖の念に染まっていようと、女子が制服で風俗街を一人歩くのは流石に印象が悪い。 そんな俗物的思考から、純は現在この苦労を強いられている。 純「もうすぐ夏服に切り替わろうかって時期にこのジャケットですか!?」 和「異論は終わってから聞くわ」 そんな五秒にも満たないやり取りで、自分の苦労が確定されたと思うと、純は内心苛立っていた。 放課後の澪との邂逅。闘気という概念の指導。 今日だけで三日分の体力を消費した気がする。 頼むから今日はもう何も起こらないでよ、などと切に願っていた純なのだが。 純「…………」 拭い様もない絶対的な違和感に、純は足を止めた。 コンクリートジャングルの中に潜む獅子。 或いは豊潤な土壌に潜む蠍。 或いは淡々と、炎々と繰り広げられる日常の中に潜む異常。 そんな場にそぐわない存在がそこにあった。 純「っ──!」 気付いてからは速かった。 喧騒で溢れる繁華街から、純の姿が消える。正確には超スピードでその場から離れたのだ。 純(うっそでしょ……。殺る気満々じゃん) コンクリートの建物の屋上を転々とし、繁華街を離れると木々が鬱蒼と茂る小山に辿り着く。 純「みーつけたっ!」 繁華街から数キロ離れたこの小山に辿り着くまでに要した時間は僅か五秒。 武術に秀でた剛の者が今の純を見ればそれだけで尻尾を巻いて逃げ出すものなのだが、それは宙を舞う純を見据えて、獣のような笑みを浮かべた。 地毛とも染色ともとれる独特な色の髪の毛を二つ結びにした可憐な容姿。 それから放たれる威圧感は醜く、どす黒い。 純「……上等!」 空中で体重移動し、落下スピードを高める。 純はそれの前に降り立った。 純「事前の取り締まりってのも一応ありなんですよね。私にそんな殺気を見せた自分の愚かさを恨んで下さいな」 三花「……『獣王』佐伯 三花。私の名前だよ」 全く噛み合っていない会話。 だが今の二人にはそれで充分だった。 純「『夢幻』鈴木 純です!」 純は三花の膝に下段回し蹴りを放った。 格闘における基本中の基本とも呼べる技。 シンプル故に強靱な一撃が三花を捉える。 純「まだまだ!」 続いて脇腹に中段回し蹴り。膝に下段足刀。瞬時に体勢を変え、ローファー越しに足の甲を踏み付ける。 がら空きの顎に上段足刀。 両手で脇腹に鉤手。こめかみに肘打ち、両手をそのまま縦に広げ、顔面と下腹部に突きを放ち、首筋に手刀を決める。 ふらつく三花の身体をそのまま倒す事は許さない。 渾身のアッパーを鳩尾に捩じ込む。 純「あははっ、こりゃ楽しいや!」 神速のコンビネーションは止まる事を知らない。 三花にその地獄のような包囲網から逃れる術は無かった。 最期に頭突きを顎に捩じ込み、三花にとっての地獄は終わる。 純「煉獄──」 倒れゆく三花の身体に見向きもせず、純は癖の強い髪の毛をさっと払った。 だがそれがいけなかった。 純は究極のコンビネーション技、煉獄を止めるべきではなかったのだ。 たとえ一昼夜続けて煉獄を放ち続けても、佐伯 三花を相手にするならば用心のし過ぎという事はない。 三花「いっ……たぁ……」 純「へ?」 背中に強烈な衝撃を感じつつ、純は一際大きな木に叩き付けられた。 負荷に耐えられなくなった木は鈍い音を立てて倒れる。 三花「急所ばっかりそんなに狙って……。『人間』だったら死んでるよ?」 純「っ!?」 三花から感じ取れる闘気は零。 つまり佐伯 三花は『絶対の彼方』を越えていない。 にも関わらず純は悪寒を感じた。 『絶対の彼方』と同等、或いはそれ以上の異端の壁を越えた力が純の肌を刺す。 純「一体……」 負ける気はしなかった。 恐らく本気でやり合えば十中八九自分が勝つであろう。 だがそんな確信の中に欺瞞が見え隠れしている。 純「何者……?」 「『獣王』よ」 丁度三花の頭上からその凜とした声は聞こえた。 腰に桜の波紋を持つ銘刀『桜花』を携えた桜高の帝。 和「……面倒な事になってきたわね。私の代の生徒会は貧乏くじだったのかしら?」 夢幻の霧の中を蠢く獣王。その眼前に女帝が降臨した。 13
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ライキリ メモリ容量 1,942 耐久値 2,970 防御力 219 バレット防御 727 レーザー防御 62 飛行速度 13,620 飛行ブースト速度 18,960 ブーストSTM消費 218 ダウン耐性 29 STM回復性能 142 炎上耐性 70 帯電耐性 147 アシッド耐性 70 重量 169
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「ディ メ- ンのやろぉぉぉぉぉ!何を企んでやがるんだ!?」 民家の中で怒りの声を再び張り上げるミスターL。 「何が!「第一回放送の時にでもまた会おう、ボン・ボヤージュ!」だ!! ジョーダンは顔だけにしとけ!!!」 まさかの見知った人物が関わっていることにミスターLの顔はゆで上がったタコのように赤く染まる。 (伯爵さまに無断でこんなことをしやがるなんて……!?。もしかして、伯爵さまもいるのか?) ノワール伯爵の部下である自分を巻き込んだことから、主君もそうなのではないかと考える。 (もし、そうなら……大変だ!急いで伯爵さまの下へはせ参じなくては!!) ミスターLは、急ぎ方針を定めると――― 「おい!そこの赤髪女!!オレはもう行く……」 ミスターLは女に別れを告げようと振り向くと――― 「!?。オマエ……」 「……」 名簿を確認していた悠奈は一筋の涙を流していた――― ☆彡 ☆彡 ☆彡 「……ありがと。ハンカチ貸してくれて」 「ふん!いつまでも泣かれていたら迷惑だからな!」 ミスターLは涙を流す悠奈にハンカチを貸したのだが、お礼の言葉に素直になれず、顔をプイっと後ろに向ける――― (……彰) ―――蒔岡彰 ”1回目の殺し合い”で出会った参加者の一人で……私の想い人。 2人は最後まで運営に抗ったが、最後の一人になるには避けられない状況となり、そして――― (会いたい……今すぐにでも。でも……私はやることがある) 本当なら、今すぐにでも探し出して抱きしめたい―――そんな想いが悠奈に渦巻くが、それを抑える。 (彰なら、わかるよね) そう、自分はあの時、ケツイをしたのだ。 彰から命……生き残るはずだった時間をもらったとき――― ☆彡 ☆彡 ☆彡 生者と死者 -藤堂悠奈ー 「……」 (この運営達は死者を蘇らせる力を持っている……) 彰を除いても、私は3……いや4人、既に死んでいる名を知っている。 「……」 ―――吹石琴美 ”2回目の殺し合い”で出会った参加者の一人。 「今まで……ありがとうね、修ちゃん」 彼女は、想い人を助けるため、PDAに書かれていたルールを破り……首輪が爆発されて死んだ。 (琴美は乗らないわ。それに正直、琴美の存在は助かる。これなら彼……修平を説得できるし、殺し合いに乗るのを思いとどまらせてくれるかもしれない) (だけど、琴美がまたしても”死んでしまった”場合は最悪ね……想い人を2回も失うこととなったらおそらく、修平はもう……) 願わくば、2人の再開を祈るわ――― 「……」 ―――三島英吾 ”最初の殺し合い”の参加者の一人。 「いいか、2人とも……俺たちは皆、運営に、はめられたようなもんなんだ……」 英吾の最後の言葉――― 彼は、次の言葉を紡ぐ前に、崎村喜貴真により頭を撃ち抜かれて死んだ。 (蘇った英吾ならおそらく、殺し合いには乗らないと思うわ) 一度は疑ったが、”あのときの真相”を知った今なら信じることが出来る。 「……」 ―――崎村貴真 ”最初の殺し合い”の参加者の一人で自らの欲望を満たすためだけにゲームに乗った男。 「これでようやく、俺の理不尽は完成する……!」 そう言い残すと恍惚な表情で私たちの前で自殺した。 (アイツはおそらく、変わらないわ……ここでも、同じようにゲームに乗るとみていい) アイツは狂っている。私は断定する 「……」 ―――(Zルートでソフィアに返り討ちにされた)軍服の男 ……って、いやいや!?何?その記載の仕方はッ!? この男だけ、どうして殺害者の名前が記されているの!?それに、Zルートって何よ!?AやBルートがあるみたいな記し方じゃない!? (……おほん💦。正直、どうして一人だけ、ああいう記し方をされているのかはわからないけど、この軍服の男が本当に”あの時の殺し合いの参加者の一人”なら、殺しに躊躇なく行動を移せるから危険とみていいわね……) それにしても、この名簿の記し方には今でも納得いかないわ――― (次に……) 私は名簿から”生きている”名前を確認する。 「……」 ―――萩原結衣 ”2回目の殺し合い”の参加者の一人。真島という男と行動を共にしていたが、私に預けられた子。 「ううん。狭いのは悠奈さんのお尻が大きいから――」 (結衣は……乗らないわね。あの子の明るさは殺し合いという場を和ませる力を持ってるわ……) あの子の憎まれ口に笑顔……できたら、もう一度聞きたいし、見たいわ――― 「……」 ―――伊藤大祐 修平たちとグループを組んでいたみたいだが、まり子と性格が合わなかったみたいで、色々と衝突があったらしい。 (お調子者で、自分に都合のいいように解釈しがちな傾向があるらしい……要注意ね) そういうタイプは必ず腹に何か一物を抱えているわ――― 「……」 ―――阿刀田初音 この子も修平たちとグループを組んでいた子。まり子と大祐が揉めた後、大祐の方についていったらしい…… (話を聞く限りでは、乗る性格ではないみたい……とりあえず、安全と考えておくか……) 「……」 ―――真島彰則 ”2回目の殺し合い”の参加者の一人で結衣曰く、ぶっきらぼうでボクシングの経験がある男。 (黒河という男と何か因縁があるみたいだけど、彼はこの殺し合いにはいないみたいだから、何とか説得して、仲間に誘えたいわね……) 「……」 ―――城咲充 ”2回目の殺し合い”の参加者の一人で黒河と行動を共にしていた男。 (まり子を襲っていた黒河を気絶させたとき、落ちていた銃を拾って私たちに構えた……あの時の怯える表情……今回も怯えから乗っている可能性がある……注意しておきましょう……) 怯えの暴発が最悪の事態を巻き起こすこともあるわ――― 「そして……」 ―――藤田修平 吹石琴美と行動を共にしていた参加者で、琴美とは互いに両想いの男の子。 (修平……琴美が生きているのよ?だから、お願い……壊れないで) 修平には言いたい事がたくさんあるわ――― 「……」 (後は、名簿の順番から”細谷はるな”って子も1回目か2回目はわからないけど、あの殺し合いに参加させられているはず。……だけど、顔も姿も思い当たらないわ。とりあえず、保留としておきましょう) (ひとまず、こんなものね……) ☆彡 ☆彡 ☆彡 「……おい!!!」 「きゃ!?」 (しまった!考えに時間をかけすぎたわッ) 「さっきから、一人で何、ぼーっとしているんだ!」 緑帽子の男……ミスターLが声をかけてきた。 「え、ええ……このタブレットの名簿に記載されている知り合い達のことを考えていたのよ」 「何!?オマエ!これの操作が分かるのか!?」 悠奈の言葉にミスターLは食いつく。 「私もそんなに詳しくはないけれど、PDAという似たようなのを操作したことがあるから……よければ、見る?」 「ああ!見せてくれ!……!!やっぱり、伯爵様も参加させられている!!ディメーンのやろぉぉぉぉぉ……」 ―――!! (さっき、吠えていた時もそうだったけど、やっぱり、この男は運営の一人と関係があるみたいね……なら!) 「やっぱり、こうしちゃおられん!……おい!赤髪女!!オレはもう行くが、せいぜい死なないようにするんだなッ!!!」 ―――行かせないわッ! 「ちょっと、待ちなさい!」 「……何だ?」 悠奈はミスターLを引き留める。 手には銃……コルトパイソンを構えながら。 「ねぇ……ミスターLは殺し合いに参加するの?」 「ふん……冗談じゃない。まず、ディメーン達をボコボコにして伯爵さまを救出する。その後は、赤い空をオレ好みの緑の空に変えさせてやるだけだ」 ミスターLはコルトパイソンにも動じず、自分の目的を話す。 「あっそ……つまんない男ね、あんた」 「なんだと!」 悠奈の言葉にミスターLの目つきが強張る。 「それって、ただ自分の欲に忠実なだけで、悪いけど、はっきり言って狭量よ。男ならヒーローを目指してほしいわね」 そう……彰のような――― 「”ヒーロー”……」 ヒーローという言葉にミスターLの表情が一瞬変わったように見えた。 「そ……それじゃあ、オマエはこの殺し合いで、何を目的に行動するんだッ!」 「私の目的は、誰1人として死者をださないことよ。それ以上でも、それ以下でもないわ」 私ははっきりと伝える――― 「どんな事があったって、私の目的はただ1つ。あくまでプレイヤー全員の生存よ」 その言葉には先ほど涙を流していたような乙女の色など微塵もなかった。 「分かってるのか!?ディメーン達は殺し合いをさせるために、こんなことをしてかしたんだぞ!?」 ―――それは、”彰”達の名前が名簿に記されていることから分かる。 「ええ。それでも、私は殺さないし、殺させない」 「はっ!……ばかばかしい一人も死者を出させないなんて”そんなの無理”に決まってる!」 ミスターLは悠奈のケツイを鼻で笑う。 「それでも、私は信念を曲げない」 それが―――彰から受け取ったモノ 彰が生き返ったとしても、私はそれを貫く――― 「ふん!なら、一人でやってろ!後、オレは”赤”が嫌いだ!だから、”赤髪”のオマエとは協力しない!」 ミスターLの言葉に私は覚悟を決める。 「なら、私が”赤髪”じゃなくなれば、いいのね?」 「……は?」 悠奈の言葉にミスターLは固まる。 「いいわ。少しだけ時間がかかるけど、そこで見ていなさい」 そういうと、悠奈は民家の化粧台に椅子を置くと、中身を確認する。 ☆彡 ☆彡 ☆彡 (……よし、あったわ) 悠奈は確認を終えると――― 箱から”2液”、”1液”、”トリートメント”を取り出す。 ―――まずは”調合” 1液を2液のボトルに入れる。 2液のボトルをキャップを閉めたら、1秒間で逆さにするのを5回繰り返す。 そのポンプの先端を2液につけて……両手にゴム手袋を嵌める。 次に髪が絡まらないように事前にブラッシングをする――― そしたら、髪を半分ぐらいの量で分けてくくる。 「……いくわ」 手に泡を出すと、馴染ませ―――後ろ髪の根元からすりこんでいく。 (てっぺんからやると、濃くなりすぎて”逆プリン”になることが多いから……) やるからには、丁寧に――― (これでも私は”女”だから) 左右に分けながらムラなく塗る―――襟足の部分もしっかりと塗る。 耳の裏もしっかりと塗る。 くくった髪をほどき、後ろ髪をざっくりと分けたら、生え際をしっかりと塗り付ける。 (そろそろ、てっぺんを塗ろうかしら……) 穂先にいく前にてっぺんを塗る―――そうそう、前髪を忘れないように。 シャンプー感覚で全体を揉み、泡でたっぷりとコーディングする。 「ねぇ……そこのラップを取ってくれるかしら?」 「!?あ、ああ……」 ミスターLは悠奈に言われた通りにラップを手渡す。 「ほらよ」 「ありがと」 「いっ……一体、さっきから何をしているんだ?」 「いいから黙ってみてなさい」 ―――私の”覚悟”を 一枚目は横で囲むように包み―――2枚目は上から包む。 あたま全部を包む。 (ドライヤー……あった」 ドライヤーで温める。 軽い温風でやる―――火傷には注意。 ーーー40分経過ーーー (仕上げね……) 「じゃ、シャワー浴びてくるから、覗かないでよ」 「!?の……覗くか!!」 (この、赤髪女……何を企んでいるんだ!?) ーーーシャワー後ーーー 「な…な…」 私の予想通り、ミスターLは口をポカンと開けている。 「これで、私の髪は”赤”から”緑”になったわ」 「!?」 ―――私のこの行動……間違ってないわよね?彰。 ☆彡 ☆彡 ☆彡 「……」 (まさか―――オレを味方にするために”染めた”というのかッ!?) まさかの悠奈の行動にミスターLの動揺が止まらない。 「よし!きちんと染めれているわね」 悠奈はドライヤーで濡れた髪を乾かしつつ、染上がりを化粧台の鏡で確認している――― 「お前……どうして、”そこまで”するんだ?」 ミスターLは悠奈の行動に疑問をこぼす――― 女にとって髪は命に等しい――― 「……そんなの1つしかないじゃない」 くるっとミスターLの向きにターンをすると――― 「ミスターL、もう一度、言うわ。私に力を貸しなさい!」 悠奈はミスターLの眼を真っすぐに見据えてミスターLに啖呵斬る。 「……髪を染めてまでして、オレを仲間に引き入れるのはどうしてだ」 ミスターLには悠奈の行動が理解できない。 「だれ1人とも殺させない」という目的のために、自分の容姿……髪の色を変えることを厭わない悠奈を――― 「2つあるわ。1つは貴方が運営の一人と関係があること。この殺し合いを強要させる連中は、私が潰そうとしていた連中より化け物じみた力を持っているわ。だからこそ、運営を知る貴方は、必ずこの殺し合いを止めるのに大きな役割を果たすと思うわ」 「……2つ目はなんだ?」 「貴方、私の”ヒーロー”という言葉に反応したわね?ヒーローに魅かれる男の子に悪いのはいないって昔からいうじゃない?できたら……ミスターLには”ヒーロー”になってほしいと思ってるわ」 「!!」 その理由にミスターLは衝撃を受ける。 「……これでも、「現実」から目を背けているわけでもないわ。だからこそ、不意打ちでも、私を拘束し得たあなたの実力を私は買ってるわ!」 「バカバカしい生き方でも、私は貫くし、一緒に貫いてほしい」 言い終えると、悠奈はミスターLに手を差し出す。 「……」 差し出してきた悠奈の手をじっと見つめるミスターL。 「ふん!……この「みどりのいかずち」が力をかすんだ!だから……大船に乗ったつもりでいろ!……ユウナ」 ミスターLは悠奈と固く握手を交わす――― ☆彡 ☆彡 ☆彡 その後、2人は互いのことについて情報交換を交わした――― 「それじゃあ、行きましょうか」 「ああ!」 2人は出発する―――理不尽に抗うために。理不尽に曝されている者を救うために。 【D-2/一日目/深夜】 【ミスターL@スーパーペーパーマリオ】 [状態]:健康、 [装備]:無し [道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3 [思考・状態] 基本:悠奈のバカバカしい生き方とやらで主催共を叩き潰す 1:悠奈と行動を共にする 2:伯爵サマたちは一体何処にいるんだ? 3:ヒーロー……か [備考] ※参戦時期は6-2、マリオたちに敗北した直後 ※悠奈からリベリオンズの世界について簡単な知識を得ました。 ※名簿から伯爵さまたちが参加していることを知りました。 ※悠奈から”拳銃”の脅威を知りました。 【藤堂悠奈@リベリオンズ Secret game 2nd Stage】 [状態]:健康 緑髪 [装備]:コルトパイソン@ リベリオンズ Secret game 2nd Stage [道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~2 予備弾数多め [思考・状態] 基本:なるべく多くの人を助け、殺し合いを止める 1:ミスターLと行動を共にする 2:彰……私は…… 3:殺し合いに乗っていない参加者達を一つにまとめる。乗った参加者は無力化して拘束する 4:もう少し、威力が低い銃もほしいわね…… [備考] ※参戦時期はAルート、セカンドステージ突入語で修平達と別れた後 ※緑髪に染めました。 ※運営が死者を蘇らせる力を持っていると推測しています。 ※ミスターLからスパマリの世界について簡単な知識を得ました。 【コルトパイソン@リベリオンズ Secret Game 2nd Stage】 回転式拳銃 。これを使用するからといって、特にモッコリはしません 「ふ、ははは……シビれるな、この感触はよぉ。」by黒河正規 006:Hell on Earth 投下順 008:花は生きることを迷わない ミドリのアイツと赤いアタシ ミスターL 036:ナイトレイドを斬る ミドリのアイツと赤いアタシ 藤堂悠奈